<ヤクルト6-5西武>◇14日◇神宮

 ヤクルトが5点差をひっくり返して今季2度目のサヨナラ勝ちした。田中浩康内野手(29)が9回の同点適時打に続き、延長11回にサヨナラの犠飛を放つ活躍。9回のホワイトセルの退場で、野手を使い切ってしまうというまさかの展開だったが、田中が救った。

 田中の一振りに、小川監督はホッとしたような笑顔を見せた。延長11回1死満塁からの左犠飛。サヨナラ勝ちを決める一打になった。そこで決められなければ次の打者は守護神の林昌勇。残っていた野手はおらず、控えていたのは投手の渡辺と久古だった。「自信がないので渡辺さんが行ってください」と、2人の話し合いで代打渡辺が準備していた。

 9回のホワイトセルの退場で、最後の野手だった福川を使ってしまった。首脳陣としてみれば想定外の状況。延長11回1死一、二塁で青木が打席にいる時に、田中は小川監督から「2死二、三塁になったら歩かされるから、ボール球を打つ準備をして、1球で仕留めろ」と、敬遠球を打つ指示まで出されていた。

 試合時間は3時間半を超え、田中の打席は文字通り最後のチャンスだった。初球で決めた。三塁走者の森岡がホームに滑り込むと、ヒーローは両腕を突き上げた。「これまで結果が出せなくて、チームに迷惑をかけていたので、なんとかしたいと思っていた」。3試合無安打が続いて12日のソフトバンク戦(福岡ヤフードーム)では今季初めてスタメン落ちまで経験した男は、喜びをかみしめた。

 この日は、首脳陣からしてみれば完全にゲームプランが狂っていた。先発の山岸は3回5失点。「緊張したでは済まされない」と悔しがったが、少し引っ張りすぎたのはむしろ首脳陣のミスだった。結果論だが、4回から延長11回まで、無安打リレーを披露したリリーフ陣を持ってすれば、ここまで不利な展開にはならなかった。控え野手がいない状況で延長戦を戦ったことと合わせて、小川監督は「選手を使いすぎちゃったり、僕がいけないんだけど、よくひっくり返してくれた」と、選手を褒めた。

 まさに総力戦で5点差を逆転したヤクルトの戦いぶりは、セ・リーグ首位を走る勢いだけでなく、底力を感じさせた。立役者となった田中に、小川監督も「おとといまでの田中がうそのような活躍だった。これで明日から、またやってくれると思う」と、期待を寄せた。【竹内智信】