<巨人6-9中日>◇31日◇東京ドーム

 巨人村田修一内野手(32)がセ界最高のヒットマンに君臨した。中日戦の2回に右前打を放ち、8月の月間安打数を46本に積み上げてリーグ記録を更新。07、08年に本塁打王を2度獲得しているスラッガーが、コツコツ打撃技術を磨き、飛距離と確実性の両立という理想型を手に入れた。月間得点32もセ・リーグ新記録。チームは敗れ連勝は6で止まった。

 あっさり樹立した。2回、村田が先頭でボックスに入る。変化球、直球(ファウル)で2ストライクと追い込まれる。次の1球に狙いを定めた。中日カブレラの外角146キロ直球。コンパクトに振り抜き、右前へ打球をはずませた。8月46回目の「H」ランプが煌々(こうこう)と光った。敗戦で喜びは半減した。「振り返ってみれば『よう打ったのかなぁ』と。無駄な凡打が少なかったのかなぁ、と」と静かに振り返った。

 本塁打キングが、安打製造機と化した。安打だけじゃない。こぢんまりなどできない男は8月、本塁打も10本放った。「7月に上がってきた調子を、ずっと維持できてこの先も、1日でも長くですね」と気を引き締めた。開幕前からの地道な取り組みと、打者としての本能が絡まり合い、飛距離と確率の両立という無双っぷりで駆け抜けた。

 最終選考でメンバー漏れした3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を、テレビで凝視した。映し出されたキューバ代表は、ほぼ全員が、すり足打法で豪快な打球を繰り出していた。「打撃フォームってすごいよね。ノーステップであんな打球を打つんだから」とカルチャーショックを受けた。

 研究熱心な男に火がついた。「上半身にパワーがあればね。あそこまでないんだったら、違うやり方もある」。方法論は、スイング全体の動作をそぎ落としていくことだった。体の中心に動きを集約することで無駄を排除した。左足は気持ち上げる程度にして、グリップの位置を低めに設定。寝ていたバットを心持ち立てて、初動をスムーズにした。「小さくなるのは本望じゃない。懐を大きく、のイメージで」と、持ち前のパワーに融合させた。

 精神的な余裕も後押しした。移籍1年目の昨季はロッカールームの壁に体当たりしながら「俺は今、壁にぶち当たっているんだ」と、仲間の前で嘆いた。巨人の重圧がのしかかり、復調の兆しも見えずシーズンを終えた。今は違う。「勢い任せの体当たりじゃなくて、今年は小さなハンマーを手に入れた。それで壁を少しずつ崩している」と、去年の苦労の1つ1つを体が覚えている。

 “ハンマー”と表現した武器は、技術だった。「打撃は1打席で悪くなる」と戒めつつ「ハンマーで壁の真ん中に穴を開けて、最後は体でぶち破るけどね」。豪快さと繊細さを兼ね備えて。11年目、32歳にして、境地に手をかけている。【為田聡史】

 ▼村田が8月46本目の安打を放ち、86年8月クロマティ(巨人)02年8月清水(巨人)の45本を抜く月間安打のセ・リーグ新記録をマーク。96年8月イチロー(オリックス)の48本には及ばなかったものの、右打者では64年5月広瀬(南海)と並ぶ2リーグ制後最多となった。48安打した96年8月のイチローは本塁打0も、村田は10本塁打。月間45安打以上で2ケタ本塁打は村田しかいない。これで村田は7月の4割6厘に続き8月も4割2分2厘の高打率。巨人の打者で2カ月連続で月間打率4割以上は89年4月・423→5月・425のクロマティ以来、24年ぶり(試合数の少ない3月と10月は除く)。