阪神の新ストッパー呉昇桓(オ・スンファン)投手(31=韓国・サムスン)の変則投球フォームが「審議」にかけられる。9日に2度目のブルペン投球を行うと、審判団が和田監督、中西投手コーチらと協議。タップダンスのように踏み出した左足が2段階で動く投球フォームに、審判から疑問の声が上がった。オープン戦までには統一見解が出る見込みだが、仮に違反投球と判断されれば深刻なダメージとなりそうだ。

 2度目のブルペンも呉昇桓は力強かった。自慢の「石直球」で正捕手藤井のミットを鳴らし、高速スライダー、新球ツーシームも低めに制球してみせた。テンポよく投げ込んだ充実の54球、新守護神の調整は順調だった。だが投球練習後、審判団の動きがあわただしくなった。

 和田監督、中西投手コーチらと話し合った。議題は左足が1度地面についたように見え、そこから踏み出していく呉昇桓の変則フォームだった模様。友寄正人審判長がこう説明した。

 「審判の中で、ちょっとどうなんだろうという声があったので、韓国の解釈と日本の解釈の違いについて話し合いを持ちました。現時点でだめだと言っているわけではありません。みんなで話し合って決めること。開幕、オープン戦までに統一見解を出したい」

 公認野球規則には投手の禁止事項として「ことさら段階をつけるモーションをしたり、手足をぶらぶらさせて投球すること」とある。いわゆる「2段モーション」の禁止だ。他球団スコアラーが打者のタイミングを狂わせる武器だと警戒していた“タップダンス投法”が、審議の対象となってしまったようだ。

 現時点で白か黒かは判断されていない。審議されるということは黒となる可能性もゼロではないということだ。もし、そんな事態になれば、深刻なダメージだ。7日の初ブルペンの後、呉昇桓は自身のフォームについて「自然とこうなった。プロに入った時、周りの選手と違うので直そうと思ったが、直せなかった」と語った。韓国で打ち立てた277セーブの礎となったものが崩れるようなことがあれば、十分に実力が発揮できるかは疑問だ。

 中西投手コーチは「国際大会もやっているわけだし。こちらとしては大丈夫だと思っている」。呉昇桓は3度のWBC出場経験を持つ。クレームをつけられたことはあっても、違反とされたことはないという。国際基準をクリアしているという事実が、阪神側の論拠としてある。

 ただ井野修審判技術委員長は最後にこう補足した。

 「日本でやる場合は、日本のルールに従ってもらわないと」

 呉昇桓は「聞いていないので、わからない」と足早に球場を去った。オープン戦初戦は今月22日。そのころまでには結論が求められる。呉昇桓にとっても阪神にとっても、今後を大きく左右する審議となりそうだ。【鈴木忠平】

 ◆2段モーション騒動

 05年4月のプロ野球実行委員会で「2段モーション」が議題になった。野球規則8・01(a)「打者への投球に関連する動作を起こしたならば、中途で止めたり、変更したりしないで、その投球を完了しなければならない」を厳格に運用し、06年からの禁止を決定。主な規制対象として横浜三浦、中日岩瀬らの名前が挙がった。秋季練習からフォーム修正に取り組む投手が続出。阪神藤川も06年春季キャンプでタイミングの取り方を変更した。