<大相撲春場所>◇4日目◇11日◇大阪・ボディメーカーコロシアム

 午後2時46分。日本相撲協会は館内の各部署で黙とうをささげた。土俵では、故郷に希望の光を与えた若武者がいる。前相撲の鈴音(16=田子ノ浦、本名・鈴木隆介)。2日前の1番相撲は敗れたが、この日は竹内を小手投げで破り“力士初勝利”を挙げた。

 福島県双葉郡浪江町の請戸小で、あの瞬間に襲われた。海岸まで約1キロの自宅は津波で全壊。5人家族は親戚のいる神戸市へ転居した。そこで2年間を過ごし福島・相馬市へ戻る。進学した県立小高工でも野球を続けたかったが、痛めていた肩が治らず退部。高校も退学し建設業に就いた。

 そんな鈴木少年の目にとまったのが、初場所の白鵬-稀勢の里戦。被災せず、普通の学生生活を送っていたらテレビで目にすることはない、相撲の魅力、稀勢の里の堂々とした迫力ある姿に魅了された。母に頼り入門にこぎつけた。

 あの日のこと、以後の4年間を「特にない」と思い返すことはない。ただ自分の運命が、あの3・11に導かれた思いは強い。「興味がなかった相撲を、震災後に見るようになった。震災があって相撲と出会えました。関取になって(浪江町に)戻りたい」。自宅の土台だけが残る故郷に、いつか必ず、晴れ姿で戻る。【渡辺佳彦】