<プロボクシング:WBA世界スーパーウエルター級暫定王座決定戦12回戦>◇30日◇大阪府立体育会館

 石田順裕(34=金沢)が、マルコ・アベンダーニョ(35=ベネズエラ)に3-0の判定勝ちを収め、暫定王者となった。距離を保って左ジャブを的確にヒットさせ、大振りの相手に的を絞らせず、最大10ポイント差をつける完勝だった。一時はボクシングから離れた「主夫ボクサー」が、34歳0カ月の日本歴代2位となる年長で世界王座を獲得した。石田は21勝(7KO)5敗2分け、アベンダーニョは27勝(19KO)7敗1分け。

 「左」で世界をつかんだ。世界初挑戦の石田は、はやる気持ちを抑え、ひたすら左ジャブを繰り出した。「ホンマは打ち合ってKOしたかったけど、勝ちに徹しました」。1回、アベンダーニョの右サイドの甘さを見抜いた。石田は「前にいきたい」と望んだが、金沢会長の「わしの言うことを聞いてくれ」の言葉に我慢した。相手の顔面は試合中から腫れた。最大10ポイントの圧勝だった。

 何度もあきらめた舞台だった。近大卒業時に「自信がなかった」とボクシングを辞めた。98年8月からは東大阪市の児童養護施設「若江学院」に勤務。住み込みで働きながら、中高生を担当した。在職中には「社会福祉主事」の資格を取得。生徒に人気の先生になる一方で、鍛え抜かれた体はゆるみ始めていた。

 生徒に問いかけられた。「先生はなんでボクシング辞めたの?」。答えられなかった。リングへの情熱が再燃しているのに、気持ちを抑えた。「人生は1度きり」と、プロ転向を決意。送別会では、同僚の竹内務先生の「ボクサー人生は、納得して辞めろよ」の言葉に涙した。

 デビューから6連勝で東洋太平洋王座を獲得したが、その後はタイトル戦5連敗。30歳になってからはトレーナー転身を何度も勧められた。この1年は世界戦の予定が3度も流れた。最初で最後のチャンスに、すべてをぶつけた。

 涙はない。「真のチャンピオンになった時、号泣します」。国内歴代2位の高齢新王者はこれからがスタート。11月に1年4カ月ぶりの試合を行う同級王者ダニエル・サントス(プエルトリコ)との統一戦も視野に入れる。「何度も辞めようと思ったけど、やってきて良かった」。乗り越えた苦労の分、喜びも深かった。【近間康隆】