手負いの大関照ノ富士(23=伊勢ケ浜)が、大一番を最後まで盛り上げた。優勝争いを1差で追いかける横綱鶴竜(30=井筒)との、結びの一番。突き放して左上手を引くと、一気に攻めて寄り切った。過去4戦全敗だった横綱を初めて撃破し、決定戦に持ち込んだ。

 一度支度部屋に戻ると、13日目の稀勢の里(29=田子ノ浦)戦で負傷した右膝に氷を当て、冷却スプレーも使って炎症を抑えた。約3分間。膝の痛みは日に日に増し、本割だけでも精いっぱい。だが目を閉じて集中力を高めると、再び勝負の土俵へ。

 館内には「照ノ富士」コールが鳴り響いていた。「聞こえたけど、頭真っ白になった。カアッってなって」。いつも、取組直前に込み上がってくる闘志。今場所はそれがなかったが、最後の最後によみがえってきた。「前に出る、前に出る。(取り口は)もう考えてない。勝っても負けてもいいんで、それが勝ちにつながったらいい。そういう気持ちだった」と、なりふり構わずぶつかる。右腕をたぐりに行くと上手を取られ、転がされた。

 逆転優勝はならなかったが、優勝同点とし、九州場所(11月8日初日、福岡国際センター)での綱とりの可能性も浮上。それでも「けががひどくならずに終わったことだけ。よかった」と、満身創痍(そうい)で大関の役目を務め上げたことに安堵(あんど)した。

 兄弟子の日馬富士(31)と白鵬(30=宮城野)の2横綱が休場する中で、追われる立場、負けてはいけない重圧-。15日間で、多くのことを学んだ。「言葉にできない。うれしいのもあるし、悔しいのもあるし」。最後に、強行出場した2日間は、間違っていなかったか-。迷いなく「はい」と答えた。後悔は、ない。