稀勢の里(29=田子ノ浦)が照ノ富士(24=伊勢ケ浜)との大関対決を制して2敗を守り、逆転優勝への望みをつなげた。千秋楽では、同じく2敗を守った大関豪栄道と対決。勝って13勝となれば、これまでの実績から優勝争いの結果にかかわらず、夏場所(5月8日初日、東京・両国国技館)が綱とりとなる可能性も出てきた。

 立ち合いの呼吸は2度、合わなかった。2度目は左ほおも張られた。これまでの稀勢の里なら冷静さを失ってもおかしくない。だが、今回は違った。「自信を持っていけたと思う」。代名詞の左おっつけで照ノ富士の巨体を起こし、右上手を引く盤石の寄りだった。

 負ければ逆転優勝の可能性がなくなる一番。直前に豪栄道が勝ち残っていた。周囲に漂う緊張。だが「そうでもないですよ。自分との闘いですから」と一蹴する余裕があった。支度部屋では、結びの一番のテレビに目を向けることはなかった。自分にだけ集中した。

 今の白鵬を見れば、逆転優勝の望みは決して高くない。ただ、千秋楽は今後を占う上でも大事な一番になる。夏場所での綱とりについて、八角理事長(元横綱北勝海)は「白鵬が強かったイメージは強い」と言いつつ「ずっと良い成績できて、実力がある。あとは内容じゃないか。白鵬は別格として、一番活躍した。今場所の盛り上がりを引っ張ってきた感じはする。偉い」とたたえて、千秋楽の相撲次第という見方をした。

 大関在位26場所で、270勝目を挙げた。昭和以降、1場所平均10勝以上を残した大関は過去28人。全員、横綱に昇進した。現時点では“最強大関”。足りないのは壁を突き抜けた数字と「優勝」の肩書だけ。それだけに12勝と13勝では、重みが異なる。最後まで優勝の望みをつなぐ上でも、白星は絶対。稀勢の里は「最後、明日。しっかりやります」と口にした。【今村健人】