この49日のうち、1カ月半はけがを治す期間だった。本格的に関取衆と相撲を取ったのは初日の8日前から。1週間前には二所ノ関一門の連合稽古があった。実は「そこでどう取れるかで判断すると話していた」と関係者は言う。結果、琴奨菊の圧力を受け止められたことで出場に傾いた。出番前、左腕で付け人を突き倒す姿にも迫力があった。「本当にけがしているのかと思った」と、付け人が驚くほどだった。

 だが、相撲勘は戻りきらなかった。異例の5日連続出稽古で状態を上げようとしたが、稽古で下地をつくる横綱にとって不足は否めなかった。八角理事長(元横綱北勝海)は「よほど踏み込まないと今場所は苦しくなる。不安を払拭(ふっしょく)するまでの稽古はできなかったのかな」と心配した。稀勢の里も稽古場と本場所の違いを聞かれて「それはあると思います」と認めざるを得なかった。

 双葉山以来80年ぶりとなる初優勝からの3連覇が懸かる。挑んだ力士は過去6人で、序盤に黒星を喫した3人は失敗した。師匠の田子ノ浦親方(元前頭隆の鶴)は「下半身を鍛えているんだから、自分に自信を持って。まだ初日なので」と鼓舞した。賜杯返還や優勝額除幕式など、初日独特のリズムがあったのも事実。稀勢の里は「また明日、切り替えてやるだけ。集中してやりたい」と言った。試練の場所は覚悟の上。立て直せるか。【今村健人】