長らくインターネット上などでうわさされていた「AKB48じゃんけん大会八百長説」が、打破された夜だった。

 世間的にはまったく無名の藤田奈那と中西智代梨の決勝戦。史上最も地味な決勝戦になり、むしろ高橋みなみ総監督は、より興奮したという。どちらもCD選抜はおろか、総選挙の80位までにもランクインしたことのない“圏外常連メンバー”。日陰で苦労するしかなかった半生をおもんぱかると「最後は、どっちも勝てと思った。久しぶりに震えたね」と、祈るように見守っていた。そして「じゃんけん大会は八百長じゃねぇぞー!!」と叫び、大会を締めてみせた。

 八百長説が流布された原因は、第2回から昨年の第6回まで5年連続で選抜常連の人気メンバーが優勝し続けていたからだ。篠田麻里子、島崎遥香、松井珠理奈、渡辺美優紀。一般人ではないマスコミの我々ですら、根拠も証拠もないのに「たしかにうまくいきすぎだ」と、思わないこともなかった。

 実際に、今大会も取材で観戦中、ベスト4に唯一の選抜常連メンバー木崎ゆりあが勝ち残ると、後輩記者が「木崎はヘルメット被ってて、耳が隠れてますよ。イヤホンをつけてるのかも。優勝は木崎かなぁ」と、ニヤニヤしながらつぶやいた。しかも、対戦相手の中西もアフロヘアで耳が隠れている。「まさか? 本当に?」。一瞬、そんな思いを巡らすと、現場の記者3人でクスクス笑ってしまった。

 常識で考えれば、出場108人もの大きなトーナメント、しかも1万人以上の衆目の前で、まだ女優でもない10代のアイドルたちが、ブック(八百長)をできるはずもない。頭で分かってはいても、ありえない下世話なことに想像を膨らまてしまうのが、人間の性なのだ。

 結果的に、髪をまとめ上げて、両耳が全開の藤田が勝ちきった。我々の邪推を一掃して、ガチンコ、100%の真剣勝負だということを、満天下に証明してみせた。

 ただ、第1回大会どころか、じゃんけん大会開催の発想時から取材し続けてきた者として「これがAKB48じゃんけん大会の本来の姿」と言い切れる。

 秋元康総合プロデューサーは「昔、僕らが選抜メンバーを決めていたら、ファンに『プロデューサーや運営が勝手に決めている』と批判された。だから『では、ファンの皆さんで選抜を決めてください』と総選挙をやり始めてみた。しかし、それでも『まだ平等じゃない』と言われた。ならば、いっそメンバー本人の運だけで決めようと、じゃんけん大会を思い付いたのです」と説明していた。

 運だけが頼りなら、無名のメンバーが勝つのは、不思議でも何でもない。確率論で言えば、むしろ自然な結果だ。レコード会社やAKBからすれば、人気メンバーに優勝してもらう方が、売り上げは望めるだろうが、こればかりは仕方がない。

 そもそも、AKB48は、これまでの芸能界の常識をことごとく破り、その発想や挑戦が世間にウケて、一大ブームになった。国民的アイドルグループに大化けした。売れっ子でなかった時代から、キーワードは、いつだって「AKB48はガチ」だった。久々に、ファン、メンバー、マスコミや一般人までが、その原則を実感させられる一夜だった。