震災のツメ跡が残る石川県の能登を舞台にした映画「能登の花ヨメ」(関西エリア6日公開)に主演の田中美里(31)と白羽弥仁監督(44)が5日、大阪市内で会見を行った。映画は東京のOL(田中)が、能登に住む婚約者の母親(泉ピン子)が足を骨折したことから、ひとり能登を訪問。嫁・姑、田舎の人間関係に悩みながらも心の触れ合いを深めていく姿を描く。

 撮影に入ろうとした矢先の昨年3月、能登半島地震が発生、神戸在住で阪神大震災を体験している白羽監督は「今だからこそ、明るい能登を撮らなければならない」と決意したという。

 金沢出身の田中も「故郷に恩返し出来れば…」と熱演。ただ、劇内では標準語の設定のため「地元の言葉が使えないので不自由でした」。また、同じ石川でも能登については「ほとんど知らない場所」だった。そんな能登でのロケは地震からわずか半年後。被災者にとっては自らの生活再建で精一杯の時期だろう。田中は最初、現場で被災者にどう接するか戸惑ったと言う。だが実際に撮影が始まると、仮設住宅で不便な暮らしを送りながらも、明るく接する地元の人々の姿に驚かされた。「新米でおにぎりを握ってくれたり、炊き出しで料理を振る舞ってくれました。おいしくて、食べきれないくらいの量なのに、地元の皆さんは申し訳ないって謝るんです。地震がなければもっと豪華な料理が出せるのにって。決して背負っている痛みを見せず、逆に明るく応援してくれる。人の強さや温かさを強く感じました」。

 一方、共演した泉や、隣人の老女を好演した内海桂子から多くのことを学んだと振り返る。「泉ピン子さんは最初ドキドキ緊張しました。間の取り方や台詞の速度でアドバイスをいただき、すごく周囲を観察されている方だなあと感じました。内海師匠は、普段は静かなのに、本番になるとスイッチの入ったようにアドリブも利かせる。86歳には思えないたくましさがあります」。2人のベテラン女優の「プロ意識」に触れたことが収穫となった。

 舞台となった能登に関しては、「(都会と比べて)何もない所かもしれない」と監督。「でも、何もないから見つかるものもある。引き算していくと見つかるものや、何もないものが大切だと感じられる場所が能登かもしれない」。「HANA-BI」の山本英夫のカメラが映し出す能登の自然風景や、勇壮なキリコ祭りの光景が、監督の言葉に説得力を与える。

 作品には地震以外にも、この国の持つ「問題」が随所に描かれている。高齢化社会、都市と地方の格差…。だが「すべての要素は密接に結びつく」と監督は考える。「能登に限らず、このまま地方は疲弊していっていいのかと疑問に思う。どの街も個性をなくし、同質化していくような現状はおかしい」。監督の問題意識が映像を通じて見る者に問い掛ける。様々な「問題」を抱え描かれた能登は、まさに「現代の縮図」そのものだ。

 最後に監督は「仕事を得るために都会に出て、都会に家族を作り、故郷に帰れない。そんな人は格段に胸に染みる作品です」とPRした。「故郷に帰ろう」がテーマだと明かした。

 なお6日に神戸シネカノン(午前10時)、大阪・第七藝術劇場(午後0時35分)、京都シネマ(午後4時45分)で舞台あいさつを行う。【原田純平】