米アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した「おくりびと」の滝田洋二郎監督(53)が26日、ロサンゼルスから帰国した。成田空港では大勢の報道陣が待ち構え、滝田監督は「まるで映画みたい」。同作はオスカー効果で連日、各劇場で大入りが続いており、作品にとっても、滝田監督にとっても映画のストーリーは続いているようだ。28日に主演本木雅弘(43)と凱旋(がいせん)会見を行う予定。

 滝田監督はオスカー像とともに帰国した。機内に持ち込めるサイズの小型キャリーケースに収め、目が届くようにして大切に持ち帰った。同行した千多枝夫人がケースを引き、滝田監督にぴったり寄り添った。

 今月21日の出発は静かだった。成田空港には日刊スポーツの記者1人。別便に搭乗した主演の本木雅弘らに取材が集中したためだが、帰国してみるとゲートには、報道陣30人以上が集まっていた。多くの祝福の声に「たくさんいらしていただいて、ありがとうございます。初めてのことなので、大変なことになってるのかなあ、なんて思っていました」と、喜びつつ戸惑いも見せた。そして、出発時に取材した記者の姿を見つけると「おもしろいね。行く時は1人で、帰ってきたら…。映画みたいだね」と笑った。

 映画のようなストーリーはまだ続いている。「おくりびと」は、公開から24週目に入るロングランで、183スクリーンで上映中。今後も増える予定だ。オスカー直前の興収ランキングがトップ10に返り咲きし、今週末はさらに上昇しそうだ。日本での盛況ぶりを聞いた滝田監督は「(興収ランクに)再ランクインしたらかっこいいねなんて言ってたけど、本当にそうなったみたいで、感無量です」と喜んだ。新たにタイとスイスでの配給が決まり、公開国も38カ国に増えた。

 出発時と違うことがまだある。実は21日の出発当日朝、入浴中に腰痛が悪化、空港職員が車いすを用意してくれた。しかし、周囲に心配を掛けまいと、写真を撮る時には立ち上がり手を振った。この日は「あの時は、気を使ってくれて車いすだったからね。いやあ、まだまだだけど」と苦笑した。喜びに包まれたロス滞在中は痛みとも闘っていたのだった。

 授賞式での「『Departures』、Japan!」のアナウンスを聞いた時から、「時間が止まっているよう」だと言う。「ずっと夢の中の気持ち。蚊帳の外という感じ。いや、台風の目の中かな」。しかし、新作への意欲も忘れていない。「まだ新しい映画の夢は見ていませんが、じわりじわりとわいてくると思います」と語った。【小林千穂】