NHK大河ドラマ「真田丸」で、真田幸村(信繁)の父、昌幸を演じる草刈正雄(63)が好評だ。戦国の有力大名に囲まれながら、はざまを生きていくしたたかさを巧みに演じている。

 豪胆なところも見せるが、窮地の対処に行き詰まると「分からん!」と本音を吐露し、生き残るためには平気でウソをつく。一歩間違えば「腹黒い男」「嫌なヤツ」のイメージに陥りそうなキャラクターだが、ひょうひょうとした草刈正雄にはそんな影がない。好感が持てる。

 42年に及ぶ俳優キャリアと持ち前のおおらかな雰囲気があるからだろう、と思う。何度かの取材経験でもその「大きさ」を実感している。

 82年の主演映画「汚れた英雄」で、危険な二輪ロードレースの撮影に挑戦した姿も目の当たりにした。宮城県柴田郡のスポーツランドSUGOのサーキットで行われたロケでは、ヘルメットで顔が見えないこともあり、当初はプロのレーサーで全シーンを撮る予定だった。が、角川春樹監督のむちゃぶりを平然と受け止めた草刈は一部シーンで自らバイクにまたがった。もともとバイクには自信があったのだろうが、肝の据わった人だと思った。

 89年の映画「風の又三郎」で又三郎の父を演じたときは、ロケ先のひなびた民宿に同宿した。撮影が終わると、私たち記者の部屋を訪れ、映画への思いや撮影中のエピソードをあけすけに話してくれた。モデル出身の典型的な二枚目のイメージからは想像しにくいが、根っから気さくな人なのだ。

 だから、先日インタビューした際に、自ら「僕は根暗」と言われて意外な思いがした。実は30年前の「真田太平記」(NHK)で草刈は幸村を演じている。そのとき昌幸にふんしたのが丹波哲郎さん(享年94)だった。

 「丹波さんはとっても明るいし、明るさがそのまま昌幸像に反映されていた。僕は根暗ですから、その辺りがまったく違う。持っている性格というのは画面に出てしまうものだから」

 収録前に感じていた意外な不安である。丹波さんの印象が強烈すぎて、なかなか自分なりのイメージを確立できなかったとも。結局は三谷幸喜さんの脚本を読み込み、忠実に直球で演じることで乗り越えたそうだ。

 そもそも草刈に「根暗」の印象を持ったことはないが「家では無口で根暗そのものなんですよ」という。昨年2月に長男(23)が所属事務所のあるマンションから転落死した。インタビューでも「今でも波のように(悲しみが)来ます。今は仕事に打ち込むことができて助かっている。仕事を離れると、また気持ちがそっちへ行ってしまうから」と心情を吐露した。本人が言う通りのネガティブ思考の持ち主ならば、最愛の存在を失ったことで、その辛さはどれほどのものだろうか、深い暗闇を想像し、しばし次の質問が浮かばなかった。

 だが、ダンサーとして活躍する長女・紅蘭と女優として活動を始めた次女・麻有の話になると、一転目尻が下がった。こんな私生活での気持ちの振れ幅の大きさが、演技の深みの裏側にあるのだ、と改めて思った。

 あのひょうひょうとした演技の奥にはさまざまな思いが詰まっている。【相原斎】