声優の大平透さん(享年86)が先週、肺炎のために亡くなった。

 昨年3月にいただいた電話を思い出す。

 「先日の取材で撮っていただいた写真、なるべく大きく焼いて送ってくださいませんか。遺影にいい写真がなくて」

 大平さんのあの声である。決して大きくはなかったが、太く、厚く耳に残った。どきっとした「遺影」の部分は冗談と受け止め、その日のうちにA4サイズとハガキ大にプリントした写真を郵送した。今から思えば、当時から体調は万全とはいえなかったのだろう。何度か行った取材打ち合わせで、病院から電話をいただいたこともあった。

 米映画「スター・ウォーズ フォースの覚醒」の昨年末公開を前にシリーズゆかりの方々にお願いした取材の一環だった。第1作の吹き替え版でダース・ベイダーの声を担当した大平さんにはシリーズ草創期のお話をうかがった。

 大平さんは05年のエピソード3でも、「スター・ウォーズ」の生みの親、ジョージ・ルーカス氏(71)直々の指名でベイダー役に再登板している。独特の声と力量は巨匠の心にも響いていた。

 新宿区の自宅にうかがった取材では、あいにくカメラマンの手配がつかず、撮影は私の小ぶりなカメラで行った。香りの立った紅茶とシロップのよく染みた昔ながらのサヴァランがカメラマンの分まで用意されていて、いたく恐縮したことを覚えている。

 自宅内のアトリエには「ハクション大魔王」「笑ゥせぇるすまん」…これまでに演じた数え切れないキャラクターがところ狭しと置かれていた。当然のようにベイダーのマスクもあり、小道具もそろった万全の準備に頭が下がった。

 取材後、パソコンで拡大してみると、表情の生きた、いわゆる使える写真は実は1枚しかなかった。これを自宅のプリンターで焼いて送ったというのが真相だ。

 数日後、律義に電話が入った。

 「本来ならば、お礼状を書かなくてはならないのですが、取り急ぎと思いまして。素晴らしい写真、ありがとうございます」

 これがあの声を聞いた最後だった。

 律義と言えば、約束の1時間、大平さんはみっちりとお話をしてくださった。56年に米ドラマ「スーパーマン」の声を担当したことに始まり、「スター・ウォーズ」シリーズでは徹底された秘密保持の詳細まで。「台本も最初はダミーを渡されるんです。本当に直前まで雲をつかむようでした。さすがに初めての経験でしたね」。

 60年代のテレビドラマ「マグマ大使」のゴア役ではスーツアクターも兼任した。「ADの人がスーツに入ることになっていたんですが、どうにも動きが悪かった。それなら『ボクが入る』となったんです」。

 きっちりと、その場で出来る全力を尽くす。大平さんらしいエピソードだ。

 個人的には「おはよう、フェルプス君」が記憶に色濃い。60年代のテレビドラマ「スパイ大作戦」の指令伝達の声だ。毎回微妙に違う設定だが、冷徹な指令と漂うユーモアの空気は変わらなかった。

 何事にも律義にブレのない仕事ぶりだったからこそ、その「声」が多くのファンの記憶に焼き付けられたのだと思う。【相原斎】