米女優ジョディ・フォスター(53)が8年ぶりに来日した。

 劇場用映画としては4本目の監督作品となる「マネーモンスター」(10日公開)のPRのためで、プレミア試写会ではシンプルな黒の膝丈ワンピースで舞台あいさつに登場した。やや外股で肩幅に足を開き、すくっと立つ。凜(りん)とした魅力が浮き上がった。ここ3年ばかり女優としての活動を控え、監督やプロデューサーという裏方に徹してきたが、オーラは消えるどころか、ますます輝いていた。

 「映画監督は気力、体力、知力すべてを注ぎ込まなくては出来ない職業です。作品には自分自身が出てしまう。だから自分をしっかり持たなくてはいけないし、たいへんなんですけど、そこが魅力ですね」

 ハリウッドスターが名を連ねる「ウオーク・オブ・フェーム」に名前が刻まれたのは今年5月4日。10代でトップ女優に上り詰めた彼女にしては遅すぎた気がするが、「女優としてではなく、監督として名前を刻まれるタイミングを待っていたの」という。「監督」へのこだわりがうかがえる。

 ギャラなどの待遇面や製作の主導権で明らかに男性優位のハリウッドで、女性監督として生きていくためには文字通り並外れた気力、体力が求められる。

 振り返ってみれば、フォスターはいろんな意味でパイオニア的存在だった。

 4人兄妹の末っ子として生まれた彼女は3歳からコマーシャル出演。当時から一家を経済的に支えていた。映画デビューは10歳。13歳のときに少女売春婦役を演じた「タクシードライバー」(76年、マーチン・スコセッシ監督)で英アカデミー賞助演女優賞。米アカデミー賞でも同賞にノミネートされている。

 81年には彼女のファンを自称するジョン・ヒンクリーがレーガン大統領暗殺未遂事件を起こし、ショックを受けたフォスターは3年あまり映画を離れることになった。痛ましい出来事だったが、そんないびつなファンを生み出すほど、彼女の存在は大きかった。

 集団レイプを題材にした「告発の行方」(89年)、連続殺人鬼と対峙(たいじ)するFBI捜査官を演じた「羊たちの沈黙」(91年)という強烈な作品で2度のアカデミー主演女優賞に輝いている。出演歴そのものがセンセーショナルな彩りなのだ。

 98年と01年に父親を公表しないまま男児を出産。一昨年にはカメラマンのアレクサンドラ・へディソンと同性婚した。

 新作の「マネーモンスター」は、人気の経済情報番組が1人の男にジャックされたことを発端に「生中継」の中で、世界経済のフィクサーがあぶり出されていくジェットコースターのような展開だ。

 キャスター(ジョージ・クルーニー)、ディレクター(ジュリア・ロバーツ)、ジャック犯(ジャック・オコンネル)がそれぞれ善人に見えたり、悪人に見えたり…多面性をのぞかせながらラストになだれ込む。報道よりは娯楽に軸足を置いていたキャスターとディレクターが、物語の進行とともにジャーナリストとして目覚め、真相解明に突き進むところがミソだ。

 否応なく「事件」に関わり、メディアの表裏を見てきたフォスターならではの作品と言える。「数年かけて脚本を書き上げ、(プロデューサーでもある)ジョージ(・クルーニー)に快く受け入れてもらえた」と振り返る。長年の交流があり、気心の知れたクルーニーとロバーツについては言うまでもないのかもしれないが、メーンキャストで1人歳の離れた25歳のオコンネルについても「私も若い頃、彼のような情熱と献身的な心を持って現場に臨んでいたら良かったと思う」とわが身に置き換えながら賛辞を贈っている。監督歴も25年を数え、懐の深さを感じさせるコメントだ。

 この3年間で、2つの人気テレビシリーズとこの作品の監督をこなし、さすがに疲れを感じているのだろう。プレミア試写会のあいさつの最後に「今後はノープラン。(10代後半になる)2人の子どもたちや犬とゆっくり過ごしたい」と胸の内を明かした。考えてみれば表舞台に立つこと半世紀。それは疲れるだろう。【相原斎】