防衛省が昨年設置した防衛装備庁の20の研究テーマの中に「昆虫あるいは小鳥サイズの小型飛行体実現…」という項目がある。

 超小型のドローンということだろう。善しあしは別にして、かの独裁国家が重ねる核実験、ミサイル試射に比べると軽量感は否めない。が、英映画「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」(12月公開)の中には、これが最新の軍事ツールとして登場する。

 テロリストの集会地点を攻撃する主役は、ミサイルを搭載した大型ドローンに違いないのだが、上空からは確認できない建物の周囲は鳥型で、室内の様子は昆虫型でそれぞれ偵察することによって作戦の精度が一気に高まる。

 テロリストの目をくらますために、その動きは文字通り「鳥」や「虫」に見えなくてはならない。一見おもちゃのような機器に、最高度のテクノロジーが求められる訳だ。

 映画はヘレン・ミレンふんする英軍大佐がロンドン郊外の自宅で目を覚ますところからスタートする。大佐指揮のもと、英米合同のテロリスト捕獲作戦実行の1日が始まる。

 ターゲットはケニア・ナイロビ郊外に潜伏している。大型ドローンを操るのは米ラスベガスに近いクリーチ空軍基地の米軍中尉、画像解析はハワイ・パールハーバーにいる分析官が行う。英・米・ケニアのそれぞれの本部にはリアルタイムで「現場」が中継され、状況に応じてGOサインや待ったが掛かる仕組みである。

 映画は随所で、現場に暮らす1人の少女をクローズアップする。好奇心の強い少女は、イスラム原理主義が禁じる教科書を隠し持っている。父親の手作りのフラフープで遊び、家計を助けるためにパンを売る。

 フラフープで遊ぶ様子は各本部の映像に映し出され、神経を張り詰める各所の担当官をほほ笑ませる。

 虫型ドローンが室内で2人の青年が自爆テロの準備を始めたところを映し出したことから緊張感は一気に高まる。彼らの出発を許せば、ナイロビのどこかで何百人が犠牲になる。捕獲作戦は殺害作戦に切り替えられ、大型ドローンのミサイルがスタンバイ。殺傷圏の算出が行われる。

 フラフープの少女の家を含め、民間人の居住区は圏外にあることが確認され、カウントダウンが始まる。が、少女が着弾予定点の近くでパンを売り始めて…。

 英米両政府の高官も巻き込んだ瀬戸際のやりとりが生々しい。「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」(09年)で知られるギャビン・フッド監督が、アクション場面でみせたメリハリをリアルな政治駆け引きに応用して秒単位のスリルを演出している。「早くパンが売り切れますように…」。映画を見ながら、こんな形で手に汗握るのは初めての体験だった。

 突き詰めれば「顔」を知ってしまった1人の少女の命と今後失われると想定される数百人の「顔」を知らない人たちの命をてんびんに掛ける判断である。主演のミレンは「人間が何百年も前から自問してきた恐ろしい倫理的な問題」と、この場面を振り返る。

 テクノロジーの話から書き起こしたが、結局は根源的な命の問題に収束していくのが、この映画のテーマでもある。

 結末には割り切れない思いが残る。それが、そもそもこの映画が提示したかったものなのだろう。ミレンの上官の英軍中将を演じた演技巧者アラン・リックマンはこれが遺作となった。この作品でも喜怒哀楽に重層感を漂わせている。虫型ドローンを操る現地工作員にふんしたソマリア出身のバーガット・アブディも印象に残った。【相原斎】