今年も残すところ4カ月を切り、ハリウッドでは夏のブロックバスター映画シーズンが終わり、いよいよ来年のアカデミー賞に向けて映画本番の季節がやってきました。9月8日に開幕するトロント国際映画祭が賞シーズンの幕開けといわれており、これから年末にかけて来年のオスカーを狙う上質な作品や注目作が多数公開を控えています。

 さて、そんな今年の賞レースの先陣を切って9日に公開されるのが、クリント・イーストウッド監督とトム・ハンクスがタッグを組んだ「ハドソン川の奇跡」。本作は、ニューヨーク発シャーロット経由シアトル行きのUSエアウェイズ1549便が離陸後のエンジントラブルのため、マンハッタンのハドソン川に不時着した、2009年の航空事故を映画化したもの。機長のとっさの判断で乗員乗客全員の命が救われたという美談は全世界でも大々的に報じられましたが、本作では知られざるその後のドラマも描くイーストウッド監督のこん身作です。

 同じく実話として注目を浴びているのは、2010年にメキシコ湾沖合で起きた史上最悪の原油流出事故を映画化した「ディープウォーター・ホライズン」。マーク・ウォルバーグ主演で、被害を最小限に抑えるために現場で奮闘した作業員に焦点を当てた作品で、9月30日に全米公開されます。

 10月になると、今年1月のサンダンス映画祭で観客賞と審査員賞をダブル受賞した話題作「ザ・バース・オブ・ア・ネーション」がいよいよ公開されます。1831年にバージニア州で起きた黒人奴隷の反乱を率いたナット・ターナーの伝記を描いた実話ですが、今年のアカデミー賞俳優部門にノミネートされた全員が白人だったことから巻き起こった「白すぎるオスカー」批判があったことから、早い段階から今年のオスカー本命との声があがっていました。しかし、監督、脚本、主演を兼任したネイト・パーカーが過去にレイプ疑惑で逮捕されていた事実が発覚し、ちょっとしたスキャンダルに発展していることから、オスカーまでの道のりにも少なからず影響が出て来そうです。

 同日に公開されるのは、2011年に公開され近年まれにみる傑作人間ドラマといわれた「ヘルプ~心がつなぐストーリー」のテイト・テイラー監督がメガホンを取った新作「ガール・オン・ザ・トレイン」。米英でベストセラーとなった小説を基にしたサイコスリラーをエミリー・ブラント主演でどのように描くのか、こちらも注目です。

 11月に入ると、「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」(12年)で2度目のオスカーを手にしたアン・リー監督の、4年ぶりの新作「ビリー・リンズ・ロング・ハーフタイム・ウォーク」と、メル・ギブソンがメガホンをとった「パッション」(04年)の続編となる「ザ・レザレクション」、サンダンス映画祭で話題を呼んだケイシー・アフレック主演の家族の絆を描く「マンチェスター・バイ・ザ・シー」などが公開を控えています。

 また、マーティン・スコセッシ監督がメガホンを取り、遠藤周作の小説を映画化した「サイレンス(沈黙)」もようやく公開の運びとなり、期待作にあげられています。アンドリュー・ガーフィールドやアダム・ドライバー、リーアム・ニーソンらと共に浅野忠信や窪塚洋介ら日本人俳優も出演しています。

 12月には一昨年のアカデミー賞作品賞にノミネートされた「セッション」のダミアン・チャゼル監督がメガホンを取るライアン・ゴスリングとエマ・ストーン主演のミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」や、2013年に起きたボストンマラソン爆弾テロ事件を映画化した「ペイトリオッツ・デイ」、デンゼル・ワシントンがブロードウェーの舞台を映画化した「フェンス」などの注目作も次々と公開される予定です。

 毎年早い段階から賞レースに名前があがる作品もあれば、ダークホースとして公開直後に注目を集める作品もたくさんあります。さて、今年はどんな作品がこれから公開され、注目を集めるのか今から楽しみです。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)