8日から開催されていたトロント国際映画祭は、エマ・ストーンズとライアン・ゴズリング主演のミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」が、最高賞となる観客賞を受賞して幕を閉じました。同作は米ロサンゼルスを舞台に売れない女優と貧しいジャズピアニストの恋を描いた作品で、来年のアカデミー賞に向けて大きな一歩となりました。「スラムドッグ$ミリオネア」が08年に同賞を受賞後にアカデミー賞に輝いたのを始め、2010年の「英国王のスピーチ」、13年の「それでも夜は明ける」など近年は同映画祭で観客賞を受賞した作品がアカデミー賞作品賞を受賞するケースが多く、「ラ・ラ・ランド」は他の候補作品を一歩リードしたといえます。

 世界3大映画祭といわれるカンヌ、ベルリン、ヴェネチアに次ぐトロント国際映画祭は、1976年に創設され、今年で41回目を迎えました。同映画祭の特徴は、審査員による投票ではなく、観客の投票によって最高賞「ピープルズ・チョイス・アワード(観客賞)」が決まることです。映画ファンが選ぶ真の映画賞といえるため、近年は配給会社やメディアの注目度も高く、ここで話題になった作品はその年の賞レースで有力候補となることが多くなりました。そんなトロント国際映画祭で、今年注目された作品を紹介します。

 観客賞の次点となったのは、ニコール・キッドマン主演の「ライオン」。自宅から遠く離れた場所で迷子となり、家族と生き別れになってしまったインド人少年が、オーストラリア人夫婦に養子として迎えられた後に大人になってから家族を探し出す実話を基にした物語です。次点2位になったのは、「それでも夜は明ける」でアカデミー賞助演女優賞に輝いたルピタ・ニョンゴ主演の「クイーン・オブ・カトウェ」。ウガンダのスラム街出身の少女が、チェス国際大会で優勝する天才チェスプレーヤーとなった実話を題材にしています。

 近年オスカーを量産しているフォックス・サーチライト・ピクチャーズが、北米の配給権を獲得して話題となったのがナタリー・ポートマン主演の「ジャッキー」。ファーストレディ、ジャクリーン・ケネディさんの伝記映画ですが、面白いのは半生を描いた作品ではなく、ケネディ元大統領の暗殺事件の直後から葬儀までの4日間を描いた作品であること。「ブラック・スワン」(10年)でバレリーナを熱演してアカデミー賞主演女優賞に輝いたポートマンの演技が大絶賛されており、主演女優賞候補入りにも期待がもたれています。

 ドキュメンタリー部門で観客賞次点2位となったのは、レオナルド・ディカプリオが世界各国を巡って地球温暖化の真実を伝える「ビフォア・ザ・フラッド」。環境問題に取り組んできたディカプリオ自らが主演とプロデュースを兼任し、アカデミー賞ドキュメンタリー長編賞を受賞した「ザ・コーヴ」(09年)のプロデューサー、フィッシャー・スティーヴンスがメガホンを取った話題作です。オープニング作品に選ばれたのは、黒沢明監督の「七人の侍」の舞台を西部開拓時代のメキシコに写して描いた西部劇「荒野の七人」(60年)のリメイク「マグニフィセント・セブン」。映画「トレーニング・デイ」(01年)のアントワーン・フークア監督とデンゼル・ワシントンが再びタッグを組み、イーサン・ホークやクリス・ブラッド、イ・ビョンホンら豪華キャストが出演しています。

 他にもオリバー・ストーン監督がアメリカ国家安全保障局(NSA)がどのような手口で個人情報を収集しているかメディアに告発したエドワード・スノーデン氏を描いた「スノーデン」や今年1月のサンダンス国際映画祭で観客賞と審査員賞をダブル受賞した「ザ・バース・オブ・ネーション」なども話題を集めました。これから本格化する賞レースでは、どんな作品が名乗りをあげてくるのか今から楽しみです。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)