いよいよ今週末に迫ったアカデミー賞授賞式ですが、今年は直前まで何かともめ事が起きる異常事態となっています。日本からは「万引き家族」が外国語作品賞に、「未来のミライ」が長編アニメーション映画賞にそれぞれノミネートされるなど日本でも注目が集まる今年のアカデミー賞は、ネット配信映画として初の受賞が期待されるネットフリックスの「ROMA/ローマ」が作品賞、監督賞など最多10部門にノミネートされ、レディー・ガガが初主演映画「アリー/スター誕生」で主演女優賞に、「ブラックパンサー」がアメコミ作品として初の作品賞候補入りするなど何かと話題性もありますが、昨年から度々トラブルに見舞われています。世界中が注目する映画の祭典で一体全体何が起きているのでしょう。

今年の授賞式を巡っては、司会に決まったコメディー俳優のケビン・ハートが、過去の同性愛者に対する差別的ツイートが原因で発表からわずか数日で降板する騒動が勃発。その後も新たな司会者が決まらないまま、今年は司会者抜きで進行されることになったのはすでに報道で伝えられている通りですが、今度はテレビの生中継時間を1時間ほど短縮する関係で撮影賞など4部門をCM中に発表し、テレビで生中継しないことを決めたアカデミー賞に対し、ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ロバート・デ・ニーロら大物俳優やギレルモ・デル・トロ監督、クリストファー・ノーラン監督ら業界内部から、「この4つの部門に携わる人たちへの侮辱だ」との批判の声があがったのです。世間一般であまり注目が集まらない賞をCMの間に発表し、結果と受賞者スピーチを編集したものをその後に放送するという案でしたが、50人以上の映画人たちが公開書簡に署名し、映画界で最も権威あるアカデミー賞に対して「愚かな決断だ」と待ったをかけたのです。その結果、発表からわずか4日後にはこの案は撤回されることになりました。近年の視聴率低迷が理由としてあげられていますが、「ROMA/ローマ」でメガホンを取ったアルフォンソ・キュアロンも、「映画の歴史において、音響色、物語、出演者、音楽がない名作は存在しません。撮影や編集なしで映画は成り立ちません」とコメントするなど、映画の根幹に関わる部分を無視するようなアカデミー賞の決定に失望した人も多かったようです。

授賞式の時間短縮は、他にも歌曲賞(主題歌賞)にノミネートされた楽曲のパフォーマンスにも影響を及ぼしています。「アリー/スター誕生」で主題歌賞にノミネートされたガガとブラッドリー・クーパーは、授賞式でパフォーマンスを行うことがすでに発表されていますが、主題歌賞にノミネートされている5曲中2曲しか当日ステージで披露されないと今月に入ってバラエティー誌が伝え、批判が殺到。後に「RGB」からジェニファー・ハドソンが「I’ll Fight」を、ベッド・ミドラーが「メリー・ポピンズ リターンズ」から「幸せのありか」を歌うことが発表されましたが、「バスターのバラード」からの楽曲披露は明らかにされていません。それぞれの楽曲を短縮して全5曲披露される可能性もあるようですが、「司会者も音楽もないない授賞式なんてありえない」「不公平だ」といった声があがっていました。

この他にも「人気映画賞」部門を新たに設立することが決まりながらも、作品賞へのノミネートが有力視されていたマーベル映画「ブラックパンサー」を作品賞から除外するのが目的ではないかと映画ファンからも批判が相次いだことを受けて人気映画賞を新設する案が白紙になるなど、今年は一度発表された事案が批判を受けて覆る事態が何度も繰り返し起きています。

前代未聞のトラブルで30年ぶりに司会者なしで開催される今年のアカデミー賞は、果たしてどのような授賞式になるのでしょうか。第91回アカデミー賞授賞式は現地時間2月24日にハリウッドのドルビー劇場で開催されます。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)