先日発表された第87回アカデミー賞で作品賞や主演男優賞など6部門にノミネートされたクリント・イーストウッド監督の「アメリカン・スナイパー」が、空前の大ヒットとなっています。同作は昨年12月25日にロサンゼルスなど一部地域の4館で限定公開された後、アカデミー賞ノミネートが発表された週末に全米3555館で拡大公開。16日からの3日間だけで9200万ドルを超える興行収入を記録し、早くも「グラン・トリノ」(08年)を抜いてイーストウッド監督作の歴代1位となる大ヒットとなっています。1月に公開された映画としても、「アバター」を抜いて米映画史上最高の売上を記録するなど、その勢いはまだまだ止まりません。作品の良さはもちろんのことながら、主演に人気俳優ブラッドリー・クーパーを起用したことや、イーストウッド監督のオスカー候補入り落選への同情票など様々な要因が挙げられていますが、衝撃の結末が多くの人を引き付ける本作とはどんな作品なのでしょう。

 イラク戦争で活躍した実在の米軍最強のスナイパーといわれたクリス・カイル氏の自伝を映画化した本作は「世界にひとつのプレイブック」で主演男優賞、「アメリカン・ハッスル」で助演男優賞候補に名を連ねたクーパーが3年連続となるアカデミー賞ノミネートの快挙を成し遂げたことでも話題。しかし、何よりもイーストウッドが監督賞候補から落選したことは大きなショックでした。本作はイーストウッド監督らしく、単なる戦争映画ではなく、カイル氏の人生に焦点を当て、仲間を守るために戦う姿や残された家族の葛藤・苦悩など人間模様を丁寧に描いています。母国では最強のスナイパーとして称えられる一方、イラクの武装勢力からは「悪魔」と恐れられていたカイル氏は、同時多発テロを機に母国を守るためにネイビーシールズ入りし、イラク戦争に従事。「引き金を引いて目の前の敵を殺すことが母国の平和につながる」と信じて敵を狙い続けてきたカイル氏は、数多くの仲間の命を救う一方で、「殺される前に殺す」という戦争原理から子供や女性にも容赦なく銃口を向けるシーンなどもあり、観客に無言で戦争の是非を問う内容でもあります。

 最強のスナイパーも戦地を離れれば1人の夫であり、2児の父親。4度にわたるイラク遠征で心を病む場面や残された家族との間の葛藤も描かれています。人間の内面に向き合う作品作りが得意なイーストウッド監督作品らしく、見る者に様々なことを考えさせる本作は、日本では2月21日公開予定。来月22日に発表されるアカデミー賞作品賞でも有力候補に躍り出ており、オスカー獲得にも期待がもたれています。

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