演出家蜷川幸雄氏が今年5月に80歳で亡くなり、今も現役で演出する大物演出家と言うと、浅利慶太氏(83)だろう。2年前に54年の劇団創立から60年間もけん引した劇団四季の代表の座をおり、浅利演出事務所を設立。12月7日から11日まで演出舞台「アンチゴーヌ」を東京・自由劇場で上演する。

 古代ギリシャを舞台に不条理な現実に立ち向かう女性アンチゴーヌを描くフランスの劇作家ジャン・アヌイの名作で、野村玲子が11年ぶりにアンチゴーヌを演じる。浅利氏は劇団四季の旗揚げ2作目に上演した。

 「レベルの高い作品は、いつやっても魅力は変わらない。初演の時は20代だったけれど、80代でまた演出するのはなつかしい思いがある。超一流の作品は、やる人間にとっても毎回新鮮で、何度もご覧になる方にも新鮮に映るはず。当時はカッカしながらやったけれど、今はシンプルに淡々としなやかに、奥行きや深さを感じられるようにみせたい」と話す。

 浅利氏はミュージカル「キャッツ」「オペラ座の怪人」などのロングランを成功させ、劇団四季を日本でトップの劇団に育て上げた「カリスマ経営者」の顔も持つが、四季代表を降りた後も、稽古場に顔を出すという。「今も四季の大株主だし、僕の部屋もまだありますから。この間も(11日初日の)『ノートルダムの鐘』の稽古を見てきましたよ」。

 10月に「ベニスの商人」など幾つもの作品で演出・主演のタッグを組んだ俳優平幹二朗氏が急逝した。「何十年来の親友。これからのこともよく話していた。幹ぐらい、残っていてくれたらなと思うし、本当にもったいない。みんな天国に行っちゃいましたけどね。僕だけ地獄に残っている」と苦笑する。

 今後を聞くと、「芝居は、あまり先のことを考えちゃいけない。恋愛と一緒で目先にいる人に夢中にならないと」と言いいながらも、来年はミュージカル「夢から醒めた夢」の上演が決まっている。「丁寧に作りたい。これからもお客さんが喜んでくださるだろうなというものを考えながらやっていきたい」。文学座の故戌井市郎氏は90歳を越えるまで演出をしていたが、浅利氏なら、90歳を越えても現役演出家であり続けそうだ。【林尚之】