再来年1月の東京・歌舞伎座で、松本幸四郎(74)が2代目松本白鸚、市川染五郎(43)が10代目松本幸四郎、松本金太郎(11)が8代目市川染五郎を襲名します。親子3代襲名は81年の8代目幸四郎の初代白鸚、染五郎の9代目幸四郎、金太郎の7代目染五郎襲名以来、37年ぶりとなります。

 8日に会見が行われましたが、実は35年前の襲名も取材しています。今回の会見で金太郎は記者の質問にあまり答えなかったのですが、染五郎は「35年前の会見の時の私より、30倍しゃべっています」とフォローしました。実際、当時の染五郎も父とともに取材した時にあまり話さなかったので、苦労しましたが、幸四郎夫人の紀子さんによると、「金太郎は家でも話さないけれど、夫(幸四郎)も染五郎もあまり話さないんですよ」と証言していますから、幸四郎家の伝統なのでしょうか。

 今回の染五郎の幸四郎襲名で歌舞伎界の「世代交代」が急速に進みそうです。今年1年は染五郎をはじめ、片岡愛之助(45)中村獅童(44)尾上松緑(41)市川猿之助(41)尾上菊之助(39)市川海老蔵(39)中村勘九郎(35)ら40代半ばから30代半ばの中堅花形の活躍が顕著でした。存命なら60代初めの十八代目中村勘三郎、十代目東三津五郎が亡くなり、「歌舞伎の危機」とも言われましたが、彼らの活躍はそういう不安を一掃しました。

 そして、染五郎、愛之助、獅童、猿之助、海老蔵、勘九郎らは古典だけでなく、従来の歌舞伎ファンだけでなく、新しい観客を開拓するために新作歌舞伎の上演に熱心です。特に染五郎は今年5月に米ラスベガスのホテルで「獅子王」を上演したり、来年は高橋大輔、荒川静香らフィギアスケート選手と歌舞伎がコラボした公演に出演、演出するなど、並々ならぬ熱意を持って新作に取り組んでいます。

 染五郎は会見で「映像としての歌舞伎もあり得ると思う」と話すなど、幸四郎となっても歌舞伎の新しい可能性を模索し続ける覚悟を示しました。今回の襲名に続いて、数年後には海老蔵の「市川団十郎」襲名が確実でしょう。若いころから役に恵まれ、スターとして活躍し、確実に実績を積み上げてきた中堅花形の今後の舞台に注目したいと思います。【林尚之】