ファンタジーを極めた「スター・ウォーズ」の世界とは対極のリアルな宇宙が描かれる。

 火星探査ミッションの事故で1人取り残された隊員が、次の探索までいかに生き延びるか。昨年の「インターステラー」のように異次元の哲学的世界に話を展開するわけではない。ひたすら現代の科学で想定可能な技術力だけで、2億2530万キロの帰還を図る。衛星軌道からの帰還を描いた「ゼロ・グラビティ」を火星まで拡大した作品と言えばわかりが早い。

 「想定内」の出来事だから、「命がけ」には実感がある。居住空間の壁1枚、宇宙服の素材1枚の向こう側に「死」があることがひしひしと伝わる。「エイリアン」「ブレードランナー」のリドリー・スコット監督だから、さじ加減は心得ている。

 取り残された隊員が植物学者というのがミソで、数年にまたがるサバイバル生活を畑作でしのぐところも面白い。室内に「人工雨」を降らしたり…テレビでおなじみのでんじろう先生の実験をほうふつとさせる。

 マット・デイモンが演じる「気力と忍耐の限界」。青筋立てた表情にリアリティーがある。【相原斎】

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