人気コミックを原作にした作品には批判もあるが、強みもある。連載年月に培われたキャラクターの深みは一朝一夕にできるものではない。

 昨年の「ちはやふる」は今でも青春映画の傑作だと思っているし、羽海野チカさん原作のこの映画はホームドラマの傑作である。

 幼くして両親を亡くし、プロ棋士の家に引き取られた高校生、零を巡る人間模様。10代からプロ棋士になった彼には、義父の実子たちとの確執があり、家族のように接してくれる下町の一家がいる。内向的だが、将棋の才能に恵まれ、棋界には心強い仲間もいて、頂点をうかがう位置まで駒を進める。

 「るろうに剣心」の大友啓史監督がアクションの触れ幅を心象風景に転化して、将棋盤にこめた命がけや人情を映し出す。絡み合った人間関係は類型に収まらない。零役の神木隆之介は肩の微妙な怒らせ具合にも感情の起伏を感じさせ、静かな演技に全身を使っている。

 病的な肥満体になってみせた染谷将太、憎まれ役に全力投球の有村架純、近寄りがたい名人の加瀬亮…誰もが原作の深みに迫り、楽しんでいるように見える。【相原斎】

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