雪組トップ早霧(さぎり)せいな、相手娘役・咲妃(さきひ)みゆのサヨナラ公演「幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)」「Dramatic“S”!」は21日に兵庫・宝塚大劇場で開幕する(5月29日まで)。早霧の男役17年、現代宝塚を代表する名コンビ「ちぎみゆ」約3年の集大成は、名作映画をもとにした人情喜劇だ。東京宝塚大劇場は6月16日~7月23日。宝塚特集面はタイトルを「宝塚~朗らかに~」と一新して毎月第2、第4木曜日に、さらにスターを深く掘り下げていきます。

 風がさわやかに吹くように笑い「ザワザワ、そわそわする感じなんです。集中したい思いとは裏腹に」。言葉の選び方が独特の個性派トップらしく、慌ただしい退団公演を表現した。

 フランキー堺主演の映画「幕末太陽傳」が原作。大尽遊びに興じる佐平次が織りなす人情喜劇だ。コスチュームやルックスに頼らない内面から出る「二枚目」を表現する難役だ。

 「最後の男役、これで大丈夫なのか(笑い)。宝塚の二枚目とは違う。一筋縄で出せないかっこよさ。培ってきた男役の技をあえて崩す。外す。その『粋』を感じてもらえたら」

 江戸っ子キャラ。原作の元となった「居残り佐平次」など落語も研究した。

 「ここまできたら、青天(和物かつら)もしっくりくるねって言われたら、しめたもん」

 病を隠しながら、ひょうひょうと生きる設定がサヨナラ公演と重なる。「さようなら~じゃなくて、じゃあな! で」と話す。本拠地お披露目だった「ルパン三世」に近い。ルパンを成功させた早霧にしか表現できないキャラでもある。

 ルパン以外にも「るろうに剣心」「ローマの休日」と著名作を成功させ、唯一無二のトップ像を築き上げた。男役17年。小柄で細身、抜群の美貌ゆえ、誰よりも熱く男らしい内面とのギャップに悩んできた。

 「本当に男性に見える男役になりたくて。でも、下級生の頃は、フェアリータイプと言われ…。その瞬間ごとに最善を尽くしてきたつもりで、まったく悔いはない。今思えば、もうちょっと楽しめたかな? と思うところもあり、今も必死なんですけど、でも、苦しんだから楽しかった。自分に正直に生きてこられた」

 黙っていればクールな美人だが、宝塚の“熱(アツ)男”と言えば早霧-とのイメージも定着。17年かけて理想に近づけてきた。

 「千秋楽の大階段、目に焼き付くんでしょうね~。もう、何もできなくなるぐらい、やりきりたいですね」

 退団後は、封印してきたことも解禁される。

 「高校生以来やっていないスキーとか、ケガが怖くてできなかったことを。ラフティングにも初挑戦したいし、まったくしたことがない料理! 料理教室に通って基本から。料理、作ったことないんですけど、やるなら徹底したいタイプ。意外と料理研究家とかになっているかも(笑い)」

 元トップはほぼ例外なく女優に転身しているが、早霧は悩んでいるという。

 「元々が、演じることよりも“男役”にあこがれを持ってこの道に入ったので。男役から離れちゃうと、私の中で演じたいって気持ちは、今のところ、わきづらいんですよね」

 質問にまっすぐ向き合い、答える早霧らしい。あまりに正直な、今の本心だ。

 「(将来)何をすればいいのか悩んでいたときに、宝塚がわいてきて、つかみに行って、ずっとここまで走ってきた」。夢中で走り続け、ゴールが目前に迫った。速度を緩めることなく走り抜けることしか、頭にない。【村上久美子】

 ◆ミュージカル・コメディ「幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)」(脚本・演出=小柳奈穂子氏) 鬼才・川島雄三監督の代表作映画で、フランキー堺主演の「幕末太陽傳」が原作。実在した品川の遊郭・相模屋を舞台に、人間模様を軽妙タッチで描いた人情喜劇。女郎おそめ(咲妃)をあげて、大尽遊びに興じた佐平次(早霧)は、一文無しながら、ひょうひょうと居座る。番頭まがいの振る舞いをしながら、次々と起きる騒ぎを解決し、礼金をため込んでいく。

 ◆ドリームシアター Show Spirit「Dramatic“S”!」(作・演出=中村一徳氏) 早霧、咲妃コンビを筆頭に「S」をテーマに繰り広げられるショー。宝塚大劇場公演は、103期初舞台生のお披露目公演。

 ☆早霧(さぎり)せいな 9月18日、長崎県佐世保市生まれ。01年入団、宙組。06年新人公演初主演。09年雪組、13年「ベルサイユのばら」でオスカル、14年10月「伯爵令嬢」でトップ初主演。一昨年1月の本拠地お披露目「ルパン三世」から「星逢一夜」「るろうに剣心」「私立探偵ケイレブ・ハント」まで、就任4作連続で大劇場稼働率100%超えは史上初。身長168センチ。愛称「ちぎ」。