民放4月改編を控えたこの時期、今年は各局で「TBSが気になる」という声をよく聞く。実際、昨年下期はゴールテン帯とプライム帯の平均視聴率が5年ぶりに2ケタとなり、NHKを含めた全6局の順位も、プライム帯では5位から3位に上げている。局員たちは「胸を張れるほどの段階ではない」と自重するが、局内の雰囲気は以前よりぐっと明るい。

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 各局の1月の定例会見は、共催する放送記者会との懇親パーティー形式で行われることが多い。オフレコが慣例で、社長や役員がざっくばらんに課題や展望を語るが、今年はどの局でも「TBSがちょっと気になる」という声を聞いた。「微増だが」「全体的にはまだ5位だが」「恐怖というほどではないが」など微妙な前置きはつくものの、TBSがこんなふうに他局で話題に上るのはここ数年なかったことだ。“2強3弱”といわれる民放界の新しい動きになるんだろうかと、ちょっとわくわくした。

 好調は数字にも表れている。

 14年度下期の平均視聴率は、全日帯6・0%、ゴールデン帯(午後7時~同10時)9・5%、プライム帯(午後7時~同11時)9・4%とすべて1ケタだったが、15年度下期(15年9月末~16年1月末現在)は全日6・0%、ゴールデン10・4%、プライム10・2%。ゴールデンとプライムで、11年以来5年ぶりに2ケタを回復した。1%前後の変化ではあるが、放送局にとって1ケタと2ケタの差は大きい。1日の最高視聴率が夕方の「水戸黄門」再放送の7・2%(09年)だったとか、年末特番を「レコ大名場面」「ドリフ名場面」「JIN総集編」などの再放送でやり過ごして惨敗(10年)したとか、そんな時代と比べれば、明らかな回復基調に見える。

 NHKを含めた6局の順位も上げている。14年度は全日、ゴールデン、プライムのすべてで5位だったが、15年度はゴールデンが4位(日テレ、テレ朝、NHK、TBSの順)、プライムが3位(日テレ、テレ朝、TBSの順)にジャンプアップしている。

 昼の情報番組「ひるおび!」が4年連続同時間帯1位と好調であるのをはじめ、14年あたりにゴールデンでスタートした「マツコの知らない世界」(火曜9時)や「水曜日のダウンタウン」(水曜10時)、「人間観察バラエティ モニタリング」(木曜8時)なども2ケタをキープ。曜日の柱となる番組が成長してきた印象だ。

 「何曜何時はこの番組、というタイムテーブルを視聴者に覚えてもらうことが目標なので、少しでも認知され始めたのであればうれしいのですが…」(同局)。レギュラー番組を2時間スペシャル化して毎週代わりばんこで放送する“たすきがけ編成”を大幅にやめ、我慢強く1時間のレギュラーを張り続けてきた。テレビ朝日は派手なたすきがけで結果を出しているのでどちらが正解とは言えないが、プロデューサー主義でこつこつ作るTBSの社風には、本来の1時間レギュラーを地道に重ねていくやり方のほうが合っているのかもしれない。

 開局60周年だった昨年は新しい試みにもチャレンジしていて、民放で初めてネット媒体を対象にしたプロデューサー懇親会を開いて話題になった。案じるところもあったようだが、発信すればすぐに響くネット媒体の即効性は日々実感しており、とりあえず動いてみたようだ。会場では各番組のプロデューサーが宣伝担当とセットになって番組資料を配って回り、PRスピーチに励んでいた。ちなみに、弊紙デジタル編集部に届く1日のニュースリリースも、TBSが一番多い。「どれかひとつでも掲載されたらもうけもの」とたくましい。

 編成幹部は「全日帯はNHKを入れてまだ5位なわけで、こんなレベルで好調だと言っていたらバカかと思われる」と苦笑いするが、笑う余裕もなかった時期を振り返ると、いろいろ見違える。昨年4月に就任した武田信二社長の明るいキャラクターも大きいのかもしれない。ベテラン社員は「人をおとしめて笑うような番組が嫌いで、それ以外なら好きなように作ったらいいというスタンスで分かりやすい」。低迷時の局内は、こちらも居場所に困るような暗さを感じたけれど、最近は表情も明るいし、声も大きい。制作の中堅社員は「最近はエレベーターの雰囲気から違う。『お疲れ』とか『最近どう』とか、ぐっと笑顔が多くなった」。

 ゴールデン、プライムの復調を足がかりに、テレビ局の本丸である全日帯にどうつなげるかが今後の課題であるようだ。来月には4月編成も正式に発表される。全日帯でも「TBSがちょっと気になる」と言われる日が来るのか来ないのか、ちょっと気になる。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)

※視聴率はビデオリサーチ調べ(関東地区)