長渕剛(58)が、8月22日夜から静岡県富士宮市の富士山麓で開催する「10万人オールナイト・ライヴ2015 in 富士山麓」。この一大イベントに向け、さまざまな角度、証言から連載する。

 7月19日、長渕剛(58)はフジテレビ系「ワイドナショー」に出演した。松本人志(51)らと最新ニュースを語る番組の話題は安保法案強行採決へと進んでいった。松本が抑止力になるなら、法案成立もやむなしととれる発言もある中、長渕は語り始めた。

 長渕 なぜ戦争が起こるのか、もう1つは僕たちが銃を持って(戦争に)行くんですか? 今の子どもたちが銃を持って行くんです。僕ら行かない人間が語るべきことは、絶対に(戦争を)しないようにするには、どうしたらいいか。そこに怒りを向けるべきで、そこは松本君はお笑いでやって欲しいし、僕は銃をギターに替えてやるから。

 テーマ後半では、感覚論として戦争が近づいていると危惧、安倍首相に歌を聴きに来てほしいとも言った。そして、「僕ら文化人が何をすべきかというのが大事ですよ」とまとめた。

 長渕のオールナイトライブの思いが強くなっていったのは、11年3月の東日本大震災がきっかけだった。被災地に駆けつけ、ふさぎ込む人々を励まし、自衛隊員と肩を組んだ。ミュージシャンとしてやれることを尽くしながら、変わらない現状への不安、危機感、飢餓感を募らせていた。

 13年秋、長渕は自宅も近く、長く家族ぐるみで交流する作詞家で音楽評論家の湯川れい子に相談した。ライブ実現に向け、壮大なプランを熱く語る長渕に、湯川は冷や水をかけるように問いかけた。「10万人規模で富士山なんて、やれるのは自衛隊の演習場しかないわよね。ブルーインパルスを飛ばして、五輪のマークでも描くの?」。厳しい追及にも決意は固かった。湯川は決めた。「だったら、私も一緒にやるわ。私は平和しか望まないからね。私も人生かけるわよ」。

 長渕と向き合った秋の日を湯川が振り返る。

 湯川 剛さんは以前から「音楽にしかできないことがあるとすれば、それはつながることです」と話していました。歌い、つながることで、祈りが生まれるんだと。正直、剛さんだって、具体的にどうしていいのか分かっていないのかもしれません。だからみんなで固まって「違うんじゃないか、違うんじゃないか」と答えを探すんだと思います。それにしても、安保法案が強行採決されるなんて。あのころ、社会がここまでになるとは思いませんでした。

 今年9月にも戦後日本を大きく変える法案が成立する。それを予見していたかのように13年秋、オールナイトライブの構想が具体的に動きだした。(敬称略)【特別取材班】

 ◆長渕は04年8月21日、故郷鹿児島の桜島でオールナイトライブを行った。7万5000人を集め、9時間42曲を歌った跡地には、記念モニュメント「叫びの肖像」が建てられた。ファンとの連帯を確かなものにした場所が、新たな文化の発信地になることを期待していたが、後日訪れると像にさい銭が供えられるなど、寂しげな風景が広がっていた。変化が生まれなかったことへの憤りは、叫び続ける使命感になり、再びオールナイトライブへ奮い立たせる一因になった。