武田梨奈(24)が、公開中の映画「木屋町DARUMA」(榊英雄監督)で、女優として新たな境地を開いた。内容が過激すぎるあまり、出版社が出版を断り、電子書籍化された同名小説の中の“紅一点”ながら、股や顔をなめられ、性行為を表現する言葉も吐く役どころ。榊監督や共演陣から限界まで追い込まれ、初めて感情のリミットを超えた演技をつかみ、女優として一皮むけた思い。そしてセゾンカードのCMで、頭突きでの瓦割りを披露して大ブレイクした裏に抱えた葛藤…そして肉体、人生の全てをささげる“映画愛”まで、今の自身を赤裸々に吐露した。

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 武田が演じた新井友里は、寺島進が演じた父英一の借金のかたに風俗店に売り飛ばされて、身を落としていく女子高生だ。遠藤憲一(54)演じる、四肢のない元ヤクザの借金取り勝浦茂雄に顔や股をなめられた揚げ句、風俗店に売り飛ばされる。そこで男性客に迫られ、辱められてからは、父の前でも男性客と行うプレイ(性行為)の名称を平気で口にするようになる。何も知らない清純そのものの女子高生が、目に狂気が宿るまでに至る演技の幅は、実に広い。榊監督が「すごく真面目で優等生」と評するように、空手道で磨いた実直な人柄で知られる武田が演じるとは、誰も想像しないような役だった。

 -自分には演じることが想像できず、悔しいというのが演じた理由

 「そうですね。あと、もう1つ大きい理由が…。演じた時は21、22歳の頃でしたが、当時、私はどうしてもアクションの印象が強いと言われました。別な映画のオーディションにも幾つか行って…アクション映画ではなかったんですけど、監督やプロデューサーの方に『アクションじゃないのに、何で君、ここにいるの?』って言われたことがあって。私の中ではアクション=お芝居だと思っていますし、戦うだけって思われるのは、すごく嫌だった。体ではない、感情で表現ができる役だったので、ぜひ挑戦したいと思いました」

 -冒頭から遠藤がスカートの中に顔を突っ込んできた

 「台本には書いていなくて、テストでも全く、ああいう風にならなかったのに、本番だけスカートの中に顔が入ってきたり、顔をなめられたり…ビックリしましたし、怖かったです。あぁ、どうしようみたいな。でも、監督はリアルな表情を撮りたかったのだと思う。監督が遠藤さんに『もっと攻めてくれ』って言ったと思っていたんですが、やはり、そうでした。何となく分かっていたんですが…あのシーンがあったから、あそこまで(感情を)振り切っていけた」

 -清純な女子高生が、風俗に売り飛ばされ、みだらな言葉を口にするまでに身を落とす、振り切れた役

 「出ずっぱりではなく、大きく分けると4シーンくらい。そのポイントで、どれだけ急変するかが難しいところでした。監督や皆さんが、良い意味で追い込んでくれたのが大きかった。本番だけ、すごく攻めてきたり…想像以上に現場は過激でした」

 -榊監督からは現場で「帰れ」と言われた

 「何もしなくても怒られるんですよ。遠藤さんとしゃべっていても、スタッフさんと笑っていても『お前、何でしゃべってるんだよ』『何で今、笑っているんだ』とか。それは監督が、どんどん追い込んでいこうと決めて、やってくださったことだと思うんですけど…何をするにも全部、否定された。きつかったですし、自分がここにいていいのか、という不安もあって…それが役に生きたと思う」

 -演じた友里は全てを否定され、身を落とす役どころ。終盤は狂気に満ちた表情が印象的だった

 「これまで演じた中で、蹴ったりパンチをしたり、痛めつけたり、というシーンはありましたけど、あれ(『木屋町DARUMA』で演じた終盤のシーン)ほどまでは、やったことがないです(苦笑)現場にいるのが怖かった。役なのか自分なのか分からないくらい…トラウマ(心的外傷)になりかけていた時期があって、現場でお弁当を食べるのも進まなかった。風邪をひいても熱が出ても全然、ご飯は食べるんですけど(笑い)撮影期間だけは食欲が湧かなかった。現場にいても怒られるし、怒鳴られるし1人でいても怖くて」

 -“初体験”があった

 「榊監督や木下ほうかさん、寺島さんから(役どころに)水商売をするという設定があったので『どんどん狂っていく役だから、1回、夜の街に出てキャバクラでも風俗でも1人で行ってこい!! どんどん変化していかなきゃいけないのに、今のまま怖がっていちゃダメだ!!』と言われました。それで夜の街に繰り出して…お店には入らなかったですけど、周りを探索した。その中で、感情の変化を自分の中で出していった。終盤で、遠藤さん演じる主人公と再会して感情を爆発するシーンは、ほとんどアドリブです」

 -京都弁で叫んで、我を忘れて暴れる、そのシーンは圧巻だった

 「『何で、そこにおんねん!!』というところまでは台本にセリフがあって、『そこからはもう、セリフとか台本とか気にせず、自分で動いちゃって良いから』と言われて…爆発しましたね。『ウワーッ!!』って。あのシーンは、自分の感情のキャパシティーを超えられた、初めての瞬間でした。あれが終わってから『もう怖い現場はないな、何でも来い』と思えました。最近、キャバ嬢の役とか多くて、この間もキャバ嬢を…結構、エグい役なんです。どんどん挑戦させていただいています(苦笑)」

 -作品を通して見て、率直にどう思った?

 「自分の作品を見る時、どこか全身が、かゆくなるというか客観的に見ることができない自分がいるんですけど、この作品は“自分じゃない人”として見ることができた。初めて、そう思えました」

 -榊監督は、得意な蹴りなどアクションではなく、心で表現する芝居を求めた。映画への愛と、突き詰める姿勢を学んだのでは?

 「お芝居はお芝居、と見ていたんですが…自分なのか何なのか分からなくなるのが、本当のお芝居なのかなって思いましたね。この役に私を選んでくれたのが正直ビックリしました」

 武田を見いだしたのは、キャスティングプロデューサーも兼任した木下ほうか(51)だった。花見の時に当時、無名に近かった武田を見かけ、09年の武田の主演映画「ハイキックガール!」が頭に浮かび「ハイキックだ! と思って(劇中に)ハイキックはないけど、ちょっと言ってみようかなと声をかけた」と振り返る。武田も、木下との出会いを振り返った。

 「接点は全くなく、初対面の時、『1カ月後に映画を撮るんだけど…すごい役だから、事務所がNGを出すかも知れないけど一応、読んでくれる?』といきなり言われて、台本を読んだら、この役でビックリした。『何で私なんですか?』って聞いちゃいました。『アクションのイメージが強いので、違う武田梨奈を見たい』って言われて、演じ終わってから『ありがとう。この役は武田梨奈じゃなきゃ、できなかった』と言っていただいた。私の勝手な解釈だと、この役を演じるのは、お芝居が完璧な女優さんとか、かわいい女の子じゃない。普通にどこにでもいる素人のような女の子が、どんどん染まっていく面白さを描きたかったんじゃないかな…それで私を選んでくれたんじゃないかと思ったんです」

 -ここまでヤバい役はない

 「ないですね…今のところ。精神的には『木屋町DARUMA』が1番、ヤバかったですね(苦笑)」

 -今年公開される出演作は7本。舞台あいさつなどで、映画愛、身をささげる覚悟を口にする理由は

 「映画に救われて、生きてきたので…それが1番、大きいですね。映画を好きになったきっかけは『グーニーズ』(85年、米国)です。すごく自分がつらい、孤独を感じた時に頼るのが映画なんですよ。周りの環境にも、家族にも恵まれていると思うんですけど、弱音を吐いたり、ぶつける場所がなくて…自分の代わりに、ぶつけてくれたのが映画でした」

 -他の人に感情をぶつけるのが、苦手なのでは?

 「できないですね。空手をやっている時は、痛いという表情をしたら、その場で判定負けになるので、常にポーカーフェースでいないといけないですし、試合も練習の時も泣いたら怒られます。『泣く時は、誰も見ていないトイレで泣け!!』って教えられてきて、ずっと、それを繰り返してきました。初めて自分の感情を出せるところが、映画の世界、現場、お芝居だった。自分の新しい居場所が映画なのかも知れないと最近、気付きました。だから今回『木屋町DARUMA』でウワーッと爆発したシーンは、あんなに感情的になったのは個人的にも、人生で初めてだった。映画は、撮影の合間に時間があれば見ています。先日(主演映画の)「かぐらめ」(奥秋泰男監督、24日公開)がモントリオール世界映画祭ファースト・フィルム・ワールド・コンペティションに出品され、現地に行った帰りの飛行機でも見ました」

 -「木屋町DARUMA」は、どう見てほしい?

 「見た後に、気持ち良くなれる、感動的な映画ではないかも知れない。でも、全ての登場人物の生き様から、精神的にすごく強くなれる映画だと思うんです。生きる強さを感じられる作品だと思います」

 -「木屋町DARUMA」には空手の蹴りや突き、アクションは出てこない。本当にやっていきたいことは芝居を追求することでは?

 「蹴りやパンチでの戦いではなく、お芝居として精神的に戦いたかった。この役をやらせていただいて、私の中で1つステップアップ…挑戦できたんじゃないかと思います。今の一般的なイメージだと、頭突きで瓦割りするタレントさん、というのが強いと思います。“頭突きで瓦割り”と言われるのが嫌なのではなく、それをきっかけに、こういう作品を知ってもらえることに感謝しています」

 武田梨奈にとって「木屋町DARUMA」は、今後の女優人生において、大事で大きなマイルストーンの1つになるだろう…きっと。【村上幸将】

 ◆武田梨奈(たけだ・りな)1991年(平3)6月15日、神奈川県生まれ。10歳の時に、空手大会に出場した父の負ける姿を見て空手を始め、琉球少林流空手道月心会黒帯を取得。全日本チャンピオン。07年に映画「こわい童謡」で女優デビュー。09年の映画「ハイキック・ガール!」で映画初主演。15年は「木屋町DARUMA」のほか「原宿デニール」「ライアの祈り」「進撃の巨人 前後篇」「TOKYO CITY GIRL」が公開中。24日に「かぐらめ」が公開。愛媛県宇和島市で「海すずめ」(大森研一監督、16年初夏公開)の撮影中。第1回ジャパンアクションアワード・ベストアクション男優、女優最優秀賞、第24回日本映画プロフェッショナル大賞新進女優賞など。