女優田中麗奈(35)が異色の難役に挑んだ。無差別殺人の加害者とその家族の葛藤を描く映画「葛城事件」(赤堀雅秋監督、初夏公開)で、死刑反対を唱えて獄中にいる被告の男と結婚する女性を演じたことが25日、分かった。幅広い役柄を演じてきたが、そのキャリアの中で最も手ごわいキャラクターの1人だった。

 昨年夏の撮影。事件の被告と面会室で対面した場面で田中は、赤堀監督から何度も言われた。「もう1回いきましょう」。長いセリフを言いながら、感情の変化を微妙に表現していく場面。「分かりました」と応じて演技をするが、ダメ出しが続く。「途中から、ごめんなさい、もう出来ませんって思いました。感覚はつかみかけていても、体も声も神経も、うまく働かなかったんです」。赤堀監督から「頑張りましょう」とやさしく促される。「人はそう言われると頑張る生き物なんです(笑い)」。23回目の撮影でOKが出た。3時間以上が過ぎていた。

 予兆はあった。出演依頼が届いて脚本を読んだ。「題材は重たいのですが、とにかく面白い。とにかく作品に関わりたいと思ったのですが、演じる女性を考えたら、お手上げでした。どうしようって天井を見上げてしまいました」。

 死刑廃止運動の活動家で無差別殺人事件を起こした男と獄中結婚する女性役。脚本を読み込んでも、イメージが浮かばなかった。「私には理解不可能でした。違和感もあって、どう演じたらいいのか、まったく分かりませんでした」。それでも自分に出演依頼が届いたことを前向きに捉えた。「私ができると思っていただいているわけですから」。

 撮影前に参考文献に目を通し、撮影セットも見学した。赤堀監督に「田中さんに決まって良かった」と直接言われて「迷いはなくなりました」という。撮影中は、目線やセリフのテンポや言い回しなど具体的に指示された。「本当に助けられました」。

 それでも「追い詰められました」という面会室の場面の撮影などもあった。「最後は『すごく良かった』と言われましたが、体も心もヘトヘトでした(笑い)」。難役にも逃げず、強烈なダメ出しにも耐えた。「綱渡りのようでした。怖いから下も見ず、グラグラしてもバランスを取りつつ、緊張もドキドキも押し殺して、何とかたどり着いた感じ。でも楽しかった」。その表情は、険しく高い壁を乗り越えた充実感で満ちあふれていた。