<日曜日のヒーロー>

 これほど言論の自由を体現し、謳歌(おうか)してきた人はいないだろう。タレント大橋巨泉(80)。昨年11月に中咽頭がんと診断され、手術と放射線治療を経て戻ってきた。「死に損なったから、もう少し言いたいことを言おうと思う」。好きなことが言えない風潮やテレビの力の低下をうれう。この人の言葉は、まだまだ必要である。

 例えば「11PM」は、政治からギャンブル、エロ・グロ・ナンセンス、裏社会の話まであえて扱った。巨泉流の言論の自由の体現でもあった。

 「もうリタイアしているから言っていいかも知れないけれど、俺は視聴者レベルで番組を作ったことは1度もなかった。特に子供は無視していた(笑い)。11PMなんて、子供は見ちゃいけないよ、という番組を作ると、逆に子供は見たくなるんだよ。国会議員になった時、会う議員がみんな『親に隠れて見ていました』なんて言っていたよ(笑い)。視聴者と子供はヨイショするとつけ上がる。もう1段自分が高いところにいて番組を作って、見たい人は勝手に見なさいっていうくらいじゃないと。ただ、俺たちの時代は、テレビは茶の間の王様だったからね。でも今はネット、DVDがあり、テレビは大したことないんだよ。メディアの価値が変わった。オンデマンドシステムもあって、今は視聴者の方が見たい時に見たいものを見る。視聴者の方が強い。だから、昔みたいに視聴率30%の番組はなくなった。今は15%とったら(テレビ局の)廊下に花がついているからね(笑い)。俺や(ビート)たけしやタモリがひっちゃきになっても、もう『HOWマッチ』や『クイズダービー』みたいな番組はできないでしょ」

 弱い立場の人に思いが至らない社会や政治を嫌う。そういう思いは大病を経て強くなったように見える。残りの人生をどう生きるか尋ねてみた。

 「死に損なったから、当面あと5年生きる。85まで生きると金婚式なんだ。これまで体に10回メスを入れた。よく生き残ってきたと思うよ。大した才能のない男を食えるようにしてくれた、僕の番組を見てくれた人にね。やっぱり、今の日本の国の在り方は間違っている。経済の在り方も間違っているということを言ったり、書いたりしていきたい。そのためには、やっぱり1年の半分は外国に住んで日本を見つめていないとね」

 5月下旬にはカナダに向かう。新たな気力が湧いてきているようだった。