10年バンクーバー冬季五輪で銅メダルを獲得し、日本の男子フィギュアスケーター初のメダリストとなった高橋大輔さん(30)。リオデジャネイロ五輪でフジテレビのオリンピアンキャスターを務める。初体験のキャスター業、引退後のアスリートの生活を聞いた。

★しゃべりは不得意

 キャスターは初体験。悩んだ末、思い切って引き受けた。

 「冬の五輪は経験ありますが、夏はない。でも起用していただいたのだから僕自身の見方で五輪を盛り上げていけたら。しゃべりは得意ではありません。よくかみますし(笑い)。でも自分にとって、いい経験になる。得意ではないことに挑戦することで、見えてくるものがある。競技に詳しい方はたくさんいると思うので、それ以外の部分で何かできればと思います。逃げてるのかもしれませんけど(笑い)」

 昨年4月から12月まで、8カ月のニューヨーク暮らしを経験した。

 「帰国して目標を探すために、いろいろやってみようと思った。五輪ってアスリートにとって一番大事。テレビ局にとっても大きなイベント。期待に応えられるか悩んだけど、最終的に『選んだのは僕じゃないから』と(笑い)」

 取材を受ける立場から逆になった。注目のアスリートは、体操で個人総合2連覇、そして団体優勝を狙う内村航平だ。

 「あまりしゃべらない印象でしたが、インタビューしたら全てのことに答えてくださった。初めて人をインタビューしたのが内村さんで、僕、すごく緊張していたんです。優しい方でした。もともと体操が大好きなんです。フィギュア以外で唯一やりたいなと思ったスポーツ。最初に体操をやりたいと言ったけど、できなくてフィギュアになっちゃった。体操、飛び込み、シンクロとか新体操。フィギュアと同じ採点競技系は昔から好きでした。フェンシングも。何か美しいじゃないですか。球技も蹴り方や投げ方が美しいとか、そういう視点で見られれば」

 五輪の怖さも、魅力も知り尽くしている。

 「4年に1度というのが一番大きい。来年のことだったらイメージが持てる。メンタルも持つ。でも4年先と考えると気が遠くなる。勢いに乗れてタイミングが合えばいいですが、合わずに五輪だけ勝てないねという人も多い。運も必要。4年間をかけてきた気持ちがぶつかり合う場所というのは怖いですが、同様に面白い。見てる方も、熱を込めて見られる」

 期間を決めずに渡ったニューヨーク。その生活は8カ月間で終わった。

 「向こうで生活しながら『何してるんだろうな』というのが常にあった。金を使ってまで住む意味あるのかと思った。目標があって行っていれば良かったんですけど、目標がないまま、ただ過ごしてしまったという感じ。僕も(気持ちが)落ちたり上がったり、結構激しいので。そういう時期だったのかなと思います」

★エースとは思わず

 先月末から今月初旬まで舞台「ラヴ・オン・ザ・フロア」に出演。これも初体験のダンスショーだった。

 「体の使い方も違って、陸の上だと全然踊れないと実感しました。自由に体が動かない。同じ足を上げるのでもバランスの取り方が全然違った。今年の大きなものは2つ。ダンスとリオ五輪。失敗もあると思うけど何かを感じたり知ったりすれば次につながる。とりあえずリオが終わるまでが勝負。そこから1カ月くらいは抜け殻になるんで(笑い)」

 10年バンクーバー五輪でメダルを獲得。トップレベルで日本の男子フィギュアを引っ張り続けた。

 「僕の前に本田武史さん(02年ソルトレークシティー五輪4位)が引っ張られて世界でも活躍できると印象を与えてくれていた。『あそこまでは行ける』という目標、お手本があった。勝たなければいけないという感じではなかった。柔道であったり体操であったりと比べて、勝ったらすごいという時代だった。そういう意味でのプレッシャーはなかった。エースとは思ってなかった」

 06年のトリノ五輪では8位入賞を果たしたが、大きな差を感じた。

★「弱さあった」ソチ

 「女子の人気に勝ちたいと思った。トリノで荒川(静香)さんの金メダルを見た時、五輪のメダルって、こんなに世界の人が反応するのかっていうのを間近で感じた。メダルを取ったのと、取ってない差は何なんだっていうのを感じた。トリノに行く前と行った後では全然違った。それで、あそこ(メダル獲得)になりたいって思った。そういうモチベーション。自分が引っ張っているというより、女子に引っ張られて、いつか越してやる、と。同じ紙面に載ったら、同じくらいに扱ってもらうという気持ちでやっていた。気付いたら、そういうことになっていた」

 14年ソチ五輪では8歳年下の羽生結弦が金メダル。

 「年下の子が実力をつけてきた時は、エースとしてではなく、自分が落ちていくプレッシャーがありました。30歳近くまでやれたのは光栄でした。ただ、五輪の最後(ソチ)が、日本人の中で最下位だったのは、ちょっと悔しかった(笑い)。金じゃなくても、あの1本のジャンプを成功させていたら3位だったというのがあった。なので、あそこで、と。跳ぶ前にびびったところだったんですよ。守ってしまったところなんです。攻められなかった。そこがすごく大きい。弱さがあった」

 現役時代と生活が変わった。

 「食事は現役時代も結構自由に食べていた。酒も結構飲んでしまっていた(笑い)。現役の時は、ある意味、何も考えなくて良かったから楽でした。みんな守ってくれた。これからは、自分で切り開いていかなくちゃいけない。こういうことを他の人は、やって来たのかと。僕は10年くらい、遅れてる感じで社会勉強中です。自分の中にすごく経験値が高い部分と低い部分がある。ギャップを消化し切れていない。いろいろな分野に手を伸ばしていくというか消去法で。出来ないことが分かるし、向かないと思っていたことでも、やってみたら意外にいけるじゃんっていう時がある。そこから可能性が広がると思います」

 氷上から舞台を移した今も大きく飛び続けている。

▼リオ五輪キャスターを務めるフジテレビ宮沢智アナウンサー(26)

 初めてお会いしたのはまだ現役の時でした。スポーツキャスターになりたての私には、あまりにも輝いて見えたことを鮮明に覚えています。周りをとりこにしてしまうスターのオーラ、どんな相手にも真摯(しんし)に向き合ってくださる姿勢、丁寧に言葉を紡ぎ出す優しい雰囲気、本当にたくさんの魅力を持った高橋さんとお仕事ができてとてもうれしいです! オリンピアンキャスターとして、アスリートはもちろんスポーツファンの心をわしづかみにしてください! 1カ月間よろしくお願いいたします!

◆フジテレビのリオ五輪

 高橋さんや96年アトランタ五輪から柔道60キロ級3連覇の野村忠宏さん、88年ソウル五輪シンクロでソロ、デュエット銅メダルの小谷実可子さんがオリンピアンキャスター。

◆高橋大輔(たかはし・だいすけ)

 1986年(昭61)3月16日、岡山県生まれ。8歳からスケートを始める。01年全日本ジュニア優勝。02年世界ジュニア優勝。06年トリノ五輪8位。07年世界選手権2位。05~07年全日本選手権3連覇。09年全日本選手権優勝。10年バンクーバー五輪銅メダル、トリノ世界選手権優勝。12年ニース世界選手権準優勝、グランプリファイナル優勝。14年ソチ五輪6位。同年10月に引退。血液型A。