高倉健さん(享年83)の訃報が伝わった18日、映画界に激震が走った。名作「幸福の黄色いハンカチ」のメガホンをとった山田洋次監督(83)は都内で会見し、神妙な面持ちで思い出を語った。

 山田監督は、新作「家族はつらいよ」の撮影を行っていた東京・東宝スタジオで取材に応じた。「長い映画人生でめぐりあった2人の偉大な俳優」とその死を悼んだ。山田監督が言うもう1人は「男はつらいよ」シリーズで知られる渥美清さん。2人は77年「幸福の黄色いハンカチ」で共演した。「おふたりとも同じように、ひっそり亡くなった後に知らされた。似たような形で、みんなに迷惑をかけたくないという気持ちで亡くなった。今ごろめぐりあって話してらっしゃるんじゃないかな」。

 同映画の主演をオファーしようと、都内の仕事場に招いた時が出会い。当時珍しい上下デニム姿で現れたという。「やってくれますか」と聞くと「私はいつ体を空ければいいですか」と答えたという。「(高倉さんは)『とてもうれしい日ですよ』と言い、足早にスッと出ていった。忘れることが出来ない」。

 最後に会ったのは、92年に京都で行われた日本アカデミー賞授賞式。「山田監督にぜひお会いしたい」という高倉さんと対面し、昔話に花が咲いた。10年4月に「幸福の黄色いハンカチ」リマスター版の舞台あいさつに合わせ、「34年前の撮影当時のことをいろいろと思い出しています。この年月を経て、また上映していただけるのは大変うれしいことです」としたためた手紙が送られてきた。「非常に気持ちが行き届き、極めて繊細で人の気持ちがよく分かる、ナイーブで怖いほどピリピリした神経の持ち主」と人柄を評した。

 同じ83歳。ともに日本映画を支えてきた。「健さんが元気でいてくれることが、どんなに励みになるか。小林稔侍さんから(健さんが)また仕事に入ると聞き、良かった、僕も頑張れると思ったのに。いなくなってしまった」と悔しそうな表情を浮かべた。

 取材陣から「往く道は精進にして、忍びて終わり悔いなし」という高倉さんの座右の銘を教えられると、沈黙した後、「きっと覚悟して死につかれたんだと思いますけど、もし健さんにそう言ったら『とんでもないよ。うんと苦しんだよ、悲しかったよ』と笑うかも知れませんね」と悲しみと寂しさをにじませた。【村上幸将】