第56回ブルーリボン賞(主催・東京映画記者会=日刊スポーツなど在京スポーツ7紙の映画記者で構成)の授賞式が11日、東京・霞が関のイイノホールで行われた。「くちづけ」(堤幸彦監督)で主演女優賞を受賞した貫地谷しほり(28)が、感激の涙を流した。26歳で迎えた26本目の、しかも初主演映画で初のビッグタイトルを獲得。その壇上で、13歳で初めて夢を見たことが女優になることだったと吐露。「夢のようです」と唇を震わせた。

 壇上でスポットライトを浴びる貫地谷の脳裏には、小学校の卒業式が浮かんでいた。

 「ステージに上がる時、小学校の時を思い出した。将来の夢を見て、卒業の賞状をもらって…でも、そのころから夢は本当になくて。中学生の時に今のマネジャーにスカウトされて、初めて自分の夢を持てた。女優になりたいと思った。それで今回、賞をいただけて…本当、本当…夢のようです」

 涙をこらえようとしたからか「フフッ」と何度も笑った。うれしくも恥ずかしい、照れつつも押さえきれない幸せがこぼれ落ちた。

 13歳の時、新宿駅でスカウトされるまで芸能界にうとい少女だった。歌や芝居のレッスンを受け、いろいろなオーディションを受けても受からない。震えが止まらなくなる中、ともに競う周囲の同年代の女の子を見て劣等感も覚えた。「身長がすごく伸びることもないだろうし抜群の歌唱力もない。頑張って出来るとしたら」と消去法で選んだのが女優だった。

 02年にデビューしたが「かないもしない夢を口にするのは恥ずかしい」と、胸に秘めた女優への夢を口に出来なかった。ようやく言えたのは、07年のNHK連続テレビ小説「ちりとてちん」に主演した時。「微妙な芸能人」と振り返る。

 04年「スウィングガールズ」など作品には恵まれたが賞に縁がなかった。その中、初の連続ドラマ出演となった05年のTBS系「H2

 君といた日々」など、節目で目をかけてくれた堤監督に声を掛けられ「くちづけ」と、知的障害者マコという役に出会った。堤監督への絶大な信頼感があったから、最初の登場シーンでマコの歩き方の演出をしてくれただけで全てをささげられた。だから初の栄冠を勝ち取ることができた。

 主演男、女優賞の受賞者は来年の司会が決まっている。「何ですか、根拠のない自信は…というくらい楽しみ」。涙が、はじける笑みに変わった。【村上幸将】