多くの名作ドラマを生み出した脚本家山田太一氏(79)が、東日本大震災を題材にした作品を手掛けたことが13日、分かった。テレビ朝日開局55周年記念ドラマ「山田太一ドラマスペシャル

 時は立ちどまらない」(2月22日午後9時放送)。昨年5月に被災地を訪れるなど取材を重ね、震災を背景に家族の崩壊と再生を描く作品に仕上げた。主演は中井貴一(52)。

 人間を深く掘り下げるヒューマンドラマを数多く生み出してきた山田氏が、震災に焦点を当てた。「時は立ちどまらない」の舞台は東北の海沿いの町。津波に襲われ、3人の家族と自宅を失った一家と、無事だった一家を通して家族の崩壊と再生を描く。作品の企画が持ち上がったのは一昨年秋。山田氏は取材のため、昨年5月に被災地となった東北・三陸地方を訪れ、その後も構想を練り続けた。テレビ朝日の内山聖子プロデューサーは「自ら被災された方々に話を聞き、生の声を集めていただきました。非常に生々しく、悲しく、どこかおかしい。(ドラマでは)リアルな人間の姿があります」と話す。

 中井貴一が演じる主人公は信用金庫支店長。市役所に勤める娘がいて、その恋人は漁師の跡取り息子。それぞれ黒木メイサ、渡辺大が演じる。娘が嫁ぐことが決まり、両家で顔合わせが行われたが、その5日後に大震災が発生する。主人公の一家は無事だったが、娘の嫁ぎ先の一家は家族を3人も失ってしまう。助けようとする一家と、全てを失い助けられることが苦しい一家。その対比も描きつつ過酷な状況から家族が再生していく姿に迫る。

 渡辺演じる跡取り息子の両親は柳葉敏郎と岸本加世子、祖父母を橋爪功と倍賞美津子、弟を神木隆之介が演じ、主人公の母は吉行和子、妻は樋口可南子がそれぞれ演じる。

 主演の中井は21歳の時に出演したTBS系「ふぞろいの林檎たち」を始め、山田作品にいくつか参加している。「経験を積むほど、山田先生の脚本は難しいと感じるようになる。震災のドラマではありますが『流す涙の違い』を感じていただければ」と話している。

 ◆山田太一(やまだ・たいち)1934年(昭9)6月6日、東京都生まれ。早大卒業後、58年に松竹入社。木下恵介監督に師事する。65年退社、フリーのテレビドラマ脚本家に。74年TBS「真夜中のあいさつ」で文化庁芸術祭大賞。83年「日本の面影」で向田邦子賞。85年TBS「ふぞろいの林檎たち2」などで菊池寛賞。88年に小説「異人たちとの夏」で山本周五郎賞。91年に映画「少年時代」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞。