【ベルリン(ドイツ)15日(日本時間16日)=村上幸将】第64回ベルリン映画祭の授賞式が行われ、コンペティション部門に出品された山田洋次監督(82)の「小さいおうち」に出演した黒木華(23)が、最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した。日本人の俳優賞受賞は10年の寺島しのぶ(41)以来、4年ぶり4人目。着物姿で出席した黒木は山田監督に対する感謝の気持ちで喜びを表現した。

 「ハル・クロキ

 チイサイ・オウチ

 ザ・リトルハウス!!」。審査員でアカデミー助演男優賞2度受賞の名優クリストフ・バルツ(57)から名前を呼ばれた黒木は右手を口に当てながら驚きの表情を浮かべ、首を左右に何度も振った。「名前を言われてるのもよく分からなくて。パニックでした」。握手を交わした山田監督に「行っておいで」と背中を押され、冷静さを少し取り戻した。涙をこらえながらスピーチした。「こんばんは」の意味のドイツ語「グーテン・アーベン」とあいさつした後、「こんな素晴らしい映画を作ってくださった山田監督のおかげなのですごく感謝しています」と述べた。

 昨年末から国内の新人賞をほぼ総なめしてベルリン入りした。「私がトップに立ったわけじゃない。作品が評価されてのことだと思っています。ベルリンに来られたのも監督のおかげ。みんなで取った賞」と謙虚に受け止めた。審査員からも、演技力と併せ、山田監督の手腕を含めた「作品を代表しての賞」との総評が出た。

 2年前のオーディションで山田監督に「昭和の女性の雰囲気があり、ちょっと今どきじゃない。他の女優にマネできない」と見初められた。「小さいおうち」は昭和初期の東京郊外にある一軒の家が舞台。黒木はこの家に奉公する女性を演じた。撮影に備え、お手伝いさんという職業を徹底研究。着物の所作を学ぶため、高峰秀子さん主演の60年映画「女が階段を上る時」など見た。撮影中は「派手なことをやろうとしないでいいんだよ」という山田監督の演出を素直に受け入れた。「作品の中に黒木華は存在しない」という信条のもと、常に控えめで謙虚な気持ちで現場に立った。

 この日、山田監督から「70年以上前の日本の女性を演じきれる女優はいない。見事に応えてくれた。諸外国の観客も審査員も感じてくれたのでは。国際的女優になれて本当に良かった」と祝福された。さらに「僕の手が届かない女優になるな」とも“忠告”された。これには顔を赤くしながら「すぐそばにいます。監督について来られただけでうれしい」と孫娘のように寄り添った。世界に誇る名コンビ誕生の瞬間となった。

 ◆黒木華(くろき・はる)1990年(平2)3月14日、大阪府生まれ。野田秀樹氏の舞台を経て11年「東京オアシス」で映画デビュー。13年「シャニダールの花」で映画初主演。同年「草原の椅子」「舟を編む」「くじけないで」に出演し、第26回日刊スポーツ映画大賞新人賞を始め、キネマ旬報ベストテン新人女優賞、ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、ブルーリボン新人賞など受賞。ドラマは13年「リーガルハイ」や3月スタートのNHK連続テレビ小説「花子とアン」。164センチ。血液型B。