日本柔道界に「新種」が誕生した。男子90キロ級決勝でベイカー茉秋(ましゅう、21=東海大)がバルラム・リパルテリアニ(ジョージア)を下して優勝した。

 ベイカーが幼少期に米国人の夫と離婚した母由果さん(46)も、父になろうとした。「父親代わり、気合入れて頑張ってましたよ」と笑顔で振り返る。またがったのは「金色のバイク」。いろんな経験をさせるため後部席に乗せ、都内を走った。講道館への送り迎えはもちろん、気に入った映画があれば映画館まで送り届け、1人で観賞させ、迎えも行った。「柔道だけの人間にはなってほしくなかった。いまでも後ろに乗ることがありますよ」。

 「大きいお兄ちゃんに向かっていく姿が一寸法師に見えてかわいいな」と見ていた幼いわが子。高校時代には「試合見にこないで」と言うようになったが、「道着のズボンを忘れた」と電話があると「忘れますか、柔道着」とあきれながら、いとおしさは募った。

 この日、金メダルをいの一番に母にかけた息子。「女手1人でも僕を育ててくれた。勝って恩返しをするのを五輪でできたのはうれしい」。隣の母は恥ずかしそうに涙を流した。