<国際親善試合・キリンチャレンジ杯:日本1-0UAE>◇6日◇東北電ス

 ザックジャパンがジーコ・イラクとの重要な一戦に向けて大きな不安を残した。FIFAランク23位の日本は同120位のUAE(アラブ首長国連邦)と対戦。FWハーフナー・マイク(25=フィテッセ)の決勝点で勝利したが、試合勘に不安があった主将のMF長谷部誠(28=ウォルフスブルク)が好調時の動きを見せられず前半のみで交代。W杯アジア最終予選イラク戦(FIFAランク78位=11日、埼玉)で出場停止のDF今野の代役候補DF伊野波、水本も「満額回答」は出せず、イラクとの決戦を前に不安材料が積み重なった。

 指示通りに動かぬ選手たちの姿を見ると、いらだちを表すように両手を広げ、自分の太ももを強くたたいた。ザッケローニ監督は「継続的ではなかったが時々良い連係が出た。ただ、継続的にはできなかった。プレーのいくつかのアイデアは気に入ったが、それをもっと高いスピードでやらなければいけない」と不満足そうに振り返った。

 指揮官のイライラを表す象徴的なシーンがあった。試合終了直後だ。両チームの選手が健闘をたたえ合い握手する恒例の「行事」を横目に、岡崎を呼び止めて身ぶり手ぶり猛烈な指導。岡崎の動きの課題を具体的に指摘し「なぜだ!」と鬼の形相でまくし立てた。さらに原強化担当技術委員長も交えてスタッフでピッチ上で「青空会議」。一連の姿はイラク戦へ向けた焦りにさえ見えた。

 イラク戦に向けたレギュラー見極めを狙ったザッケローニ監督の思惑に、選手が「満額回答」を出せたわけではない。所属クラブで出場機会を完全に失っている長谷部は、当初90分出場の予定だったが「前夜思い直した」と、前半のみで代えた。ただ、試合勘に不安がある長谷部の状態を考慮すれば、なるべく長い時間出場させることが最善の策とも考えられる。

 事実、長谷部は相手へのチャージが遅れ反則を取られる場面が散見され、万全な仕上がりでないことは明らか。長谷部本人も交代の理由を問われ、10秒ほど戸惑いの表情を浮かべ沈黙した後「監督に聞いて下さい。普通なら行けるところでも行けなかった。感覚として良い時のイメージとのズレがある」と本音をこぼした。

 ここまでザックジャパンのボランチは遠藤、長谷部のペアが不動。絶対的な存在だけに代役が入ると連係面に不安が生じる。MF細貝の成長はあるものの、一瞬のスキが致命傷となるのが最終予選の怖さ。これまでも想定されていたことだが、長谷部の不調は全体の危機に直結する。

 イラク戦で出場停止の今野の代役、つまりDF吉田の相棒候補として先発したDF伊野波は技術、水本も速さを示した一方で、DFライン全体の連係は不完全で、たびたび突破を許した。ザッケローニ監督は「まだ見極めは終わっていない。吉田のパートナーについては、2人ともいい動きはした。イラク戦のレギュラーは11人中8~9人は固まった」と冷静に話したが、吉田の相棒問題は本番直前までもつれそうだ。

 「連係のスピードは慣れが関係する。慣れていないチームメートとプレーするとスピードが落ちる。そこが足りなかった」。守備陣の主軸DF今野、内田が出場停止のため、一部のポジションで「慣れ」を欠く状況に陥ることは3カ月前から決まっていたこと。今から指揮官が強調する「慣れ」を高められるかは微妙だ。ただでさえイラクの監督は究極の日本通ジーコ氏。「慣れが足りない」では済まされない一戦を前に大きな不安が残った。【菅家大輔】