浦和DF槙野智章(28)が流血をおしての奮戦で、視察した日本代表のハリルホジッチ監督の心も打った。激戦の中で持ち前の球際の強さを発揮していたが、後半30分すぎ、相手との競り合いの中で鼻を強打し出血した。

 この日はアウェー戦でユニホームは白。両方の鼻孔から吹き出た鮮血が、胸の辺りを染めているのは、遠めからでもはっきりと見て取れた。西村主審にうながされ、鼻に詰め物をしてからプレーに復帰。終盤のピンチで身体を張り続け、1点差を守りきっての勝利にガッツポーズした。

 美談になりそうな献身性。だが、そこは槙野だ。「ホームならユニホームが赤いので、出血に気付かれずにプレー続行できたかもしれないんですが。西村主審にばれないように、ピッチ内で小さくなっていたのですが、やっぱりばれましたね」とあくまで冗談めかして振り返る。

 そして「神戸戦でも阿部選手の流血が白いユニホームでいつもより目立って、止血だけじゃなくきれいなユニホームに着替えることまで主審に要求されて、ピッチへの復帰に時間がかかったことがあります。それがあったので、スタッフのみなさんも今回は素早く替えのユニホームを準備してくださった」と裏話も付け加えた。

 さらには「両鼻に3つずつ綿を詰めて止血したんですが、ピッチに戻ったらチームメートから『とんでもない顔になっているぞ』と笑われました。緊迫した試合展開の中で、最後にリラックスできたのも、勝利につながったかもしれませんね」とダメ押しのエピソードを披露した。

 この日はハリルホジッチ監督も視察に訪れ「気持ちが入ったいい試合でした。選手たちはよく戦っていた。球際も激しかった」とのコメントを残した。代表のスタッフは会場周辺から東京方面への大渋滞を考慮し、試合終了の20分前には乗用車をスタンバイし、出発に備えていた。しかし同監督は激しい試合に魅入られたのか、結局後半ロスタイムまで見届けた。

 これを聞いた槙野は「なるほど」とつぶやき、笑顔から一転、真剣な表情になった。そして「ハリルホジッチ監督が日本のサッカーに求めていることを、形にできつつあるということかもしれません。こういう気持ちの入った試合を続けていけば、多くの方にJリーグの魅力が伝わるはず。そしてきっと、日本のサッカーのレベルアップにもつながっていくはずです」と何度もうなずいた。