<ACL:全北現代0-2柏>◇決勝トーナメント1回戦◇15日◇全州W杯スタジアム

 柏がアウェーで、全北現代に先勝した。脳振とうから復活したGK菅野孝憲(29)が、スーパーセーブを連発。前半にFW工藤壮人(23)、後半にDF増嶋竜也(28)が挙げたゴールを体を張って守った。ホームで行われる第2戦へ、最高の結果を手にした。

 GK菅野が神懸かり的なセーブを連発した。1点リードの後半13分。相手MFパク・ヒドと1対1になったが「体はキレていたので、シュートの方向を読まずに、最後までボールを見て反応すれば」と、瞬間的に体を倒してセーブ。このこぼれ球をFW李同国にシュートされたが、すぐに立ち上がってはじき返した。終了間際の相手のパワープレーも、焦らず防ぎきった。

 菅野は6日の横浜戦で相手選手と激突。脳振とうの際に定められている5段階のリハビリをクリアするため、11日の磐田戦を欠場した。それでも「絶対に全北戦には間に合わせる」という強い意志で復帰。アウェーでの快勝にも浮かれたそぶりを見せなかった。

 この試合にかけていた。横浜戦があった6日夜、柏市内で焼き鳥店を経営する知人男性が急死した。菅野が横浜FCから柏へ移籍して以来、週4日は通っていた常連店。店主はサッカーの話は「頑張れ」程度しか話さず、「オレが行くと負けるから」と、日立台で観戦することもなかった。だが、その心遣いが逆に心地よく、親しみを込め「お父さん」と呼ぶ間柄だった。

 そんな「柏の父」の死に奮起しないわけにはいかなかった。「今日も、これからも、その人のためにと感謝を込めてプレーしたい。そういう力も働いて今日はゼロで抑えられたかと思う」。右目の上には裂傷の痕が残るが、天国からの力に後押しされ、踏ん張った。

 新任のアレックスGKコーチのもと、菅野は練習量もメニューも格段アップ。「久しぶりに自分がまた成長できると感じている」という。ただ、実力だけではなかった。「亡くなってからでは遅いかもしれないですけど、グラウンドで結果を出すことが恩返しになる。柏に帰って、お線香をあげにいきたい」。見えない力に励まされ、大きな1勝をつかんだ。【千葉修宏】

 ◆菅野孝憲(すげの・たかのり)1984年(昭59)5月3日、埼玉県富士見市生まれ。諏訪小-東中-富士見高。東京Vユース-横浜FC。07年にJ1新人王を獲得し、08年から柏でプレー。10年J2優勝、11年J1優勝。179センチ、75キロ。愛称は「スゲ」。