<J1:東京0-1名古屋>◇第10節◇29日◇国立

 名古屋の急造右サイドバック、矢野貴章(30)が「一人二役」の“サプライズ”を巻き起こした。東京戦の後半3分、CKでニアに飛び込み、打点の高いヘディングシュートで決勝点を挙げた。今季初得点に「入ったか分からなかった。ボールと自分のタイミングは合いました」。守っても献身的なプレーで無失点勝利に貢献し、チームに6戦ぶりの勝利をもたらした。

 FWケネディに加え、MF望月、田鍋、DF牟田、本多、刀根らが相次いで負傷。西野監督は「誰か(悪い運気を)持ってるんじゃないの?

 そうとしか思えない」と嘆き、26日の鳥栖戦には1人少ない17人しかベンチ入りメンバーに登録できず、5連敗を喫していた。特にDF陣の人手不足は深刻で、矢野は13日の練習試合から右サイドバックにコンバートされ、19日の甲府戦から公式戦に出場して3試合目だった。

 矢野といえば新潟時代の10年、W杯南アフリカ大会の日本代表メンバーにサプライズ選出されたFWだが「けが人が出ている中、やれる選手は限られている。『できない』という言い訳はできない」と迷いはなかった。「初挑戦だけど慣れてきた部分が大きい」。持ち前の豊富な運動量で駆け回った。

 チームは先月23日の神戸戦以来、1カ月ぶりの勝利。矢野が「攻めながらも点を取れずに失点という形が多かった。大事な試合で(点を)取れてよかった」と喜べば、西野監督も「こういう状況で何とかしようという選手の気迫が感じられた」。4年前にスポットライトを浴びた30歳が、苦節を経て、W杯イヤーに再び輝きを放った。【桑原亮】