<J2:福岡1-2松本>◇第39節◇1日◇レベスタ

 J2松本の夢が、現実になった。勝てばJ1自動昇格の2位が確定する松本は、アウェーで福岡と対戦。エースFW船山貴之(27)のゴールなどで勝利し、地域リーグから最速6年でのJ1昇格を決めた。創立50年目、Jリーグを目指して10年、圧倒的なサポーターに後押しされて地方の小クラブがたどり着いた最高峰リーグ。就任3年目でチームをJ1に導いた反町康治監督(50)に率いられて、来季は国内トップクラブに挑む。

 サポーターの歌が止まらない。雨の中、ゴール裏とメーンスタンドに集まったのは1000人以上。松本から空路で、陸路で、海路で乗り込み、緑のユニホームでスタンドを埋めた。かつて「サッカー不毛の地」と呼ばれた信州。サポーターに支えられた松本が、ついにJ1へ上り詰めた。

 J1への扉をこじ開けたのはFW船山だった。JFL時代からチームを引っ張る背番号10は「1点取ればうちは強い。J1に行けてうれしい」と話した。相手に攻められても、ゴール前に人数をかけて守る。奪ったら手数をかけず前線へ。後半26分にはFW山本が加点。相手の猛攻を1点に抑え、J1へと逃げ切った。

 終了間際には、チーム最古参のDF鉄戸が出場。地域リーグの09年に加入した32歳は「反町監督の計らいに感謝したい」と言った。野球場の外野で練習した地域リーグ時代、ほとんどがアルバイトと掛け持ちだったJFL時代、ようやくプロといえるようになったJ2時代。3カテゴリーを知るベテランは「みんなが同じ方向を見てきた結果。うれしい」と声を震わせた。

 まさかの成功だった。03年秋、松本青年会議所の集まりで出た「松本にもJクラブがあったら」。誰も信用しなかった。「サッカー不毛の地」。高校サッカーは出ると負け、DF田中のように有望選手は故郷を後にした。「スポーツを見る文化もなかった」と、八木誠取締役(49)は話した。地元の山雅クラブを強化し、元東京Vの加藤善之強化部長(50)をGMに招いた。大月弘士社長(49)は「急成長のように見えるけれど、それまでの苦労があったから」。JFL昇格は4度目の挑戦、天皇杯の浦和戦勝利や松田直樹選手の急死など全国的なニュースにもなったが、知名度はまだまだ。今でも場内アナウンスで「松本サンガ」と呼ばれることがある。

 J1昇格でも、喜んでばかりはいられない。親会社もなく、経営規模はJ2中位の年間10億円。選手の基本給は、全員合わせても2億円に満たない。J1では苦戦必至といえる。それでも、10年前に目指したのは「アルウィンを満員に」。勝つことよりも、大切なことがある。目標はドイツのSCフライブルク。同規模の街に、サッカーが根付いている。「クラブを中心にした町づくり。それができるはず」。加藤GMは、日本屈指のサポーターを見ながら言った。【荻島弘一】