会う度にきれいになっていく人がいる。元フィギュアスケート選手で現在タレントとして活躍する浅田舞さん(28)だ。

 4月28日、初の悪役に挑戦する舞台「AMAZING 八犬伝」の初日を東京・ディファ有明で取材した。約2時間の公演を終えた舞さんは、和風の衣装から、Vネックセーターとタイトスカートに着替え舞台裏から出てきた。パイプイスに座りながら「悪役のボスを演じさせてもらい、すごく新鮮。自分の新しい一面を知ることができて、だんだん快感になってきました」と演じる喜びをいきいきと語ってくれた。激しく動く内容だったからか、取材中、まだ額は汗ばんでいた。膝丈のスカートからは長い脚がのぞく。女性の私でもドキドキする色っぽさがあった。

 演じたのは「南総里見八犬伝」の妖艶な悪役、玉梓(たまづさ)。過去に夏木マリ、菅野美穂ら名女優が演じてきた難役だ。赤い衣装を着用し、目元を強調した濃いメークの舞さんは、トレードマークともいえる笑顔を封印。地上用のスケート靴で舞台の上を滑りながら、堂々とにらみをきかせていた。劇中に、昨年まで宝塚月組で煌月爽矢として活躍した中原由貴(30)と相対し、にらみ合うシーンがある。ともに取材に応じた中原は「舞ちゃんが美しすぎて、演じながらうっとりしてしまうんです」と舞台上のエピソードを明かした。

 「会う度に」と書いたが、取材しているのはここ1年半ほどでしかない。フィギュアスケート担当となった15年11月から、妹である浅田真央さん(26)とともに、姉である舞さんも追いかけるようになった。取材に行くと「いつも、ありがとうございます」と必ずこちらにあいさつをし、まっすぐ目を見て話す。真央さんに感じるのと同じ素直さに、すぐに引かれた。

 4月11日、前述した舞台の公開稽古には、前日10日の真央さんの引退発表を受けてテレビ、新聞、雑誌と報道陣が多数駆けつけた。本来ならば舞台のPRに多く時間を割きたいところだろうが、舞さんは嫌がることなく、真央さんへの思いを語った。

 取材の後、私はさらに話を聞こうと稽古の終わりを待った。数時間経ち、舞さんが出てきたのは午後10時過ぎだった。「待っててくれたんですか? すみません!」と、疲れを見せず、再び真央さんに関する質問に応えてくれた。

 この時、出演者が集まる日だけ、こうして夜遅くまで練習しているのだろうと思っていたが、後で聞けば28日の初日を迎えるまで、ほぼ毎日、午前から午後10時近くまで稽古を行っていたという。5月に入ると、今度はアイスショー「氷艶 破沙羅」(20~22日、代々木第2体育館)に向け、深夜に及ぶ稽古が始まったと自身のツイッターで報告していた。数多くのテレビ出演に加え、すごいバイタリティーである。新たな仕事に絶えず挑み、努力を続ける。この姿勢がきっと美しさの元にあるのだろう。

 ふたたび遡り、4月24日、真央さんの引退後初の仕事である給水器ブランド「キララ」の発表会見には、地元名古屋テレビ局のキャスターとして舞さんの姿があった。その会見後、ビルのロビーで同僚記者とともに真央さんが出てくるのを待っていると「こんにちはー」とメガネにマスク姿の女性に声をかけられた。舞さんだった。雑談しながら、「自分も、これから何の仕事をしたらいいですかね?」といたずらっぽく笑いながら、こちらに聞いてきた。懐に入るのも、ずるいほどにうまい。「またお願いしまーす」と言い残し次の仕事へ向かう後ろ姿を、同僚と2人で「きれいだねぇ」と言いながら見送った。

 しなやかにさまざまな仕事に取り組む舞さんの姿は、引退したばかりの真央さんの道標にもなるだろう。どこかのおじさんのようで申し訳ないが、また取材先で美しい姿を拝めるのを楽しみにしている。【高場泉穂】

 ◆高場泉穂(たかば・みずほ)1983年(昭58)6月8日、福島県生まれ。東京芸術大を卒業後、08年入社。整理部、東北総局を経て、15年11月から五輪競技を担当。