柔道のグランドスラム(GS)パリ大会に向けて出発する羽田空港で4日、井上康生・男子日本代表監督(37)が「いや~、弱いですね、弱い」と苦笑まじりに振り返っていた。

 話題は籍を置く東海大で先月末に行われた、4年生最後の稽古のこと。かわいい生徒たちに胸を貸そうと気張ったが、投げられ、投げられ、さすがに王者に君臨した現役時代のようにはいかなかったという。

 ただ、その経験も今後の指導する糧にしてしまうのが、「らしい」ところだ。自ら分析したのは「人間は攻撃力は落ちないと思うんです。感覚的なものでやっているので。だけど、受けをやっていないと落ちるなと」。攻撃では投げることができても、防御では衰えは隠せない。その理由を「強くなればなるほど、特に道場で一番強くなればなるほど、受ける回数は減るから」と見いだした。

 それはいま指揮を執る日本代表でも同じ。特に日本の一線級がそろう代表だからこそ、いま一度受けの大切さを痛感した。「受ける反応、体の使い方とか、力の入れる具合、場所が狂ってしまう。そういうところは体に常に染みこませておかないといけないな」と自らの体による「人体実験」で見つめ直せた。

 リオデジャネイロ五輪までは半年あまり。この4年間で積み重ねてきた指導には手応えがある。「戦える選手がそろったか?」という問いかけには「それは思っています、正直言って」と即答した。金メダルなしに終わった12年ロンドン五輪から、昨年の世界選手権では金メダルは3個にまで持っていった。結果が出ている状況に自信を持ちながら、続けたのは「だからこそここからの五輪までの道のりが大事になる」の声。自分の弱さから受けの大事さを痛感した1つの稽古も、その大事な道のりの1つの道しるべになるはず。日本柔道再建を目指す井上監督の日々は、いよいよ佳境を迎えていく。