<柔道:全日本選手権>◇29日◇東京・日本武道館

 2年ぶり2度目の出場の高橋和彦(25=新日鉄)が優勝候補を次々と破って、初の栄冠を勝ち取った。準々決勝で過去3度優勝の鈴木桂治を、準決勝では前年覇者の穴井隆将を判定の末に撃破。決勝では高校、大学の同級生である立山広喜を優勢勝ちで下して、初優勝した。昨年は選抜体重別選手権を始め、主要3大会で優勝したが、対外国勢に弱く低評価だった。9月の東京開催の世界選手権100キロ超級の代表と無差別級の代表候補に選出され、世界舞台に乗り込む。

 高橋は疲労と興奮で、最後の戦いの記憶が欠落していた。「最後の1、2分はあまり覚えていない」。残り1分半、有効でリードを奪われていた。だが、ここから無心で放った大外刈りで有効を奪い、同点。なおも攻め続け、残り18秒で相手に注意が出て、ついにリード。そして優勝の瞬間、表情は崩れなかった。「死に物狂いだった」。柔道家の誰もが夢見る栄冠を手に入れた実感がわかないのか、淡々と話した。

 決勝の相手は大牟田高、国士舘大の同級生、立山。現在187センチ、120キロの高橋、193センチ、145キロの立山と超大型の2人は高校時代から「ツインタワー」と呼ばれていた。試合だけでなく、練習も含めれば何度対戦したか分からない。「彼(立山)の背中を追ってきたようなもの」。柔道人生のライバルに打ち勝っての優勝だった。

 3日の選抜体重別選手権では、まさかの初戦負け。その後は母校での練習をあえて避けて、都内の大学や関西の警察道場へ武者修行に出掛けた。「(母校での練習で)知らないうちに甘えが出ていた」。今大会前には北京五輪100キロ超級金メダリストで現在、総合格闘家の石井慧のことを考えた。「勝ちにこだわる慧の執念を見習おう」。勝利だけを追求して臨んだ。

 準々決勝では大学時代に付け人だった鈴木に判定勝ち。準決勝では穴井にも勝ち、優勝候補を次々に破った。だが全5試合で1本勝ちがゼロ。男子代表の篠原監督は「内容が物足りない。世界と戦えるのか」と疑問符もつけた。元来、優しい性格で、勝負への執念が欠けていた。外国勢にも弱く、代表首脳陣に評価されなかった。だがスタミナは抜群で「短距離走も軽量級選手並み」(国士舘大・山内監督)と、スピードも備わるなど潜在能力は高い。高橋は「今日みたいな柔道じゃ戦えない。安心したというより、やらなくちゃいけない」と世界で戦う決意を固めた。【広重竜太郎】