<大相撲秋場所>◇12日目◇26日◇東京・両国国技館

 生き残ったのは、稀勢の里だった。2敗同士の対決は、大関稀勢の里(27=鳴戸)が横綱日馬富士(29)を肩透かしで破り、優勝争いに踏みとどまった。今場所の「冷静さ」を象徴するような49・2秒の我慢の相撲で、最初の難敵を退けた。これで日馬富士戦は4連勝。

 座布団が乱れ飛んだ。土俵上に何枚も、何枚も落ちてきた。その中に、仁王立ちの稀勢の里がいた。「注目される一番に勝つことは、何とも言えないところがある」。取組前、そう話していた男が横綱を転がした。「集中してやった結果です」。優勝争いへの生き残りを懸けた戦い。とどまったのは、稀勢の里だった。

 注目の一番は、めまぐるしい攻防から始まった。立ち合いで1度は日馬富士を突き飛ばした。だが、両膝を曲げて俵で踏ん張られると一転、土俵際まで追いやられた。これを残すも、頭をつけられて右前まわしを許す苦しい体勢。ここで慌てなかった。「我慢です。それだけでした」。

 30秒近くも動かぬまま、勝機を待った。横綱にきめられかけた左も、ものともしなかった。その黄金の左で起き上がらせると、完璧なタイミングで肩透かしを決めた。「何かチャンスがあればと思っていた」。不戦勝を除き、大関以下の力士が同一横綱に4連勝するのは、99年名古屋場所で曙に5連勝した出島以来。「思い切って行くだけでした」。

 今場所、相撲を変えた。勝負を急がなくなった。綱とりだった名古屋場所で、勝った11番の平均時間は8秒25。秋場所はこの日まで2倍の17秒03もかける。苦戦、というだけではない。「焦らずに、ですね。自分の形で行けるように」。強いときと悪いときの波が多かった今までから、何かを変えようともがいた。「試した」場所前は見つけきれず、そのすきが2敗につながった。だが、ようやくつかめた「負けない相撲」。それが、この日の「49秒2」に凝縮されていた。

 白鵬と2差がつき、1度はあきらめかけた初優勝の目が再浮上。ただ直接対決の前にまだ壁がある。13日目の豪栄道は8場所連続で交互に勝ち負けが続く強敵。次は勝つ番だが「やることをやるだけ」。周囲が望む最高の対決へ、持って行けるか。【今村健人】