中心打者の不振はチームの成績を大きく左右する。セ・リーグの優勝を争うチームに気になる選手がいる。本調子を取り戻して、レベルの高い争いを繰り広げて欲しい。2度、首位打者のタイトルを獲得している篠塚和典氏(64=日刊スポーツ評論家)が、スランプ脱出のカギを紹介する。

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上位3球団の争いは続き、ファンの皆さんが毎日の試合に一喜一憂する。解説者として心弾む思いだ。さらに激しい試合を期待すると、左の強打者2人の復調を思わずにいられない。

1人は前半戦を盛り上げた阪神佐藤輝だ。シーズンを通してバッティングを崩さないのは難しい。ましてやルーキー、スランプは当然だ。成長のために避けては通れないと受け止め、前向きに取り組んでほしい。

そして、巨人丸。彼の不振はチームにも大きく影響した。丸には今までとは違うタイミングの取り方をマスターしてもらいたいと感じている。バットを前に出してタイミングを取るのではなく、いろんな動きを試すことで、違う雰囲気の丸になれると感じる。

タイミングの取り方を変えるのは、大きなチャレンジだ。足の上げ方を大きくするのと小さくする、これだけでも、感覚は大きく異なる。すり足やノーステップでも、トップに入る時、わずかだが足は動くように、下半身と上半身は密接に連動している。細かい動きの組み合わせにより、理想のトップができてくる。

タイミングを取る上で欠かせないのがグリップのスムーズな動き。これによってトップが決まる。ここが生命線と言える。調子を落とすとこの動作がぎこちなくなり、グリップの移動が硬くなる。無意識のうちに体に力が入るためで、典型的な例が、グリップを止めてから動かそうとすること。そうなると反応が遅れ、トップへの間がズレる。スイングの始動が投球に対して合わなくなる。

私もこうした経験の中、悪化を防ぐため、3つのタイミングの取り方を自分のものにして、状況に応じて使い分けていた。その1つは、グリップでゆっくり円を描くように動かすもの。調子の悪い時は、いったんグリップを止めてから動かそうとする。「静」→「動」になることで、体のどこかに力が入り、円滑な動きの邪魔をする。

それを防ぐためグリップをゆっくり回しながら、スムーズに始動に入れるようにした。円運動ならばグリップは常に動いている。余計な力を入れることなく、自然な動きが維持できた。

私はいろんな打者のグリップにも注目してきた。あの王さんもタイミングを取るためグリップの動きに工夫があった。多くの人の関心は一本足打法にあった。早めに高く上げる右足に目が行きがちだったが、実は微動だにしない下半身とは対照的に、グリップはゆっくり動いていた。あの王さんも、そうやって繊細にグリップを操っていた。

神主打法の落合さんも、独特の構えの中にタイミングを合わせる技術が隠されていた。体の正面にグリップを構えていたが、両手首を柔らかく、ゆっくり静かに動かす。それでグリップのスムーズな動きをコントロールしていた。

ひとたび調子を崩すと、相手バッテリーは見逃してくれない。シーズン終盤からCS、日本シリーズにかけて、より緊迫した状況の中でスランプを抜け出すのは本当に大変なことだ。それでも、試行錯誤しながらシーズン佳境の大一番に間に合うよう、日々の練習であらゆることを試し、好調を取り戻すことを心待ちにしたい。(日刊スポーツ評論家)

◆反時計回り 打席を真上から見た場合、左打者のグリップはゆっくり反時計回りの動きになる。反時計回りにするのはボールから遠ざけるようにするため。

巨人丸佳浩の打撃フォーム(19年5月2日撮影)
巨人丸佳浩の打撃フォーム(19年5月2日撮影)
篠塚和典氏(15年7月7日撮影)
篠塚和典氏(15年7月7日撮影)