パーフェクトピッチング中だった阪神村上は、8回のマウンドに上がらなかった。5回以降は三振が取れなくなっていたように、確かに球のキレは落ちていた。1点リードで、チームの勝利を最優先にすれば、降板は当然と思う人もいるかもしれない。しかし、私がピッチャー出身だからかもしれないが、納得しかねる降板だった。

村上は大卒のプロ入り3年目で、今季初先発だった。真っすぐは140キロ台後半。それほど速くはないが、変化球のキレもよく、制球力はよかった。

このタイプの投手は狙い球を絞りにくい。ただでさえ、初対戦ということもあり、打者はどんな投手か観察しておきたいという意識が強くなる。押しては引き、引いては押す。捕手の坂本の配球意図も、しっかりと理解して投げられていた。

そんな村上を降板させた阪神ベンチは、完全試合はできないまでも、継投策で確実に勝ち星をつけてやりたいという思いがあったのだろう。しかし、交代直後の2番手石井が、岡本和に同点ソロを浴びてしまった。チームは延長戦に入って勝利したが、もし負けていれば最悪の黒星。今後の戦いへのダメージにもつながりかねない。村上が投げ続け、完全試合を逃したとしても、逆転負けしたとしても、ただの1敗で終わるだろう。そんなリスクを背負ってまで降板させる必要はなかったと思う。岡田監督はホッとしたと思う。

昨年は、2試合連続完全試合の可能性を残したロッテ佐々木朗が8回で降板するなど、現代の若い選手は、それほど気にしないのかもしれない。村上が本心から納得しての降板なのかは分からない。それでも今季の初先発であり、昨年は1軍登板もなかった投手。昨年は悔しい思いをしただろう。その悔しさが、先発マウンドでの好投につながったのだと思う。今度は完全試合を続けているのに降板した悔しさを、次回以降のピッチングにつなげてほしい。(日刊スポーツ評論家)