「サンキューマッツ」。

 また新たな伝説が生まれた。9月16日。インターネット上ではヤクルト大松尚逸外野手(35)の名前が最も熱かった。

 マツダスタジアムで行われた広島-ヤクルト戦。広島が優勝へのマジックを1とし、勝てば優勝が決まる一戦。大松は2点を追う7回2死二、三塁で代打で登場。広島薮田に2球で追い込まれるが3球目をしぶとくはじき返し、一、二塁間を破る同点の2点適時打を放った。その後、ヤクルトが勝ち越し、広島の地元での優勝が消えた。

 くしくもその日はパ・リーグのソフトバンクも優勝を決めており、大松の同点打は59年ぶりのセ・パ同時優勝を阻止する意地の一打となった。この大仕事にYahoo! JAPANが提供するリアルタイム検索では「大松」が「ソフトバンク優勝」を抑えて、トレンド1位に浮上。ツイッターなどでは冒頭の言葉とともに大松の名前がつぶやかれ続けた。

 大松はネット上の野球ファンから愛されている。詳細は割愛するが、ロッテ時代から印象に残る活躍が多く、一種の伝説としても騒がれるほどだ。ヤクルトに移籍した今季も伝説を残し続けた。5月9日の広島戦では12回裏に代打で登場してサヨナラ弾をたたき込んだ。7月26日の中日戦では0-10から10-10に追いつき、延長10回に代打でサヨナラ弾。プロ野球タイ記録となる歴史的な逆転劇を決める1発を放った。

 本人はネット上で騒がれることをどう思っているのか。直撃してみた。

 大松 知ってるよ。僕は(ネットを)見ないけど、周りが知らせてくれる(笑い)。良くも悪くも名前が挙がるというのはいいこと。たくさんの人が、この世界に長くいられるわけじゃない。そうやってネタにされるだけでもありがたいと思わないと。プラス思考かな(笑い)。

 反応を好意的にとらえ、自らのモチベーションへと変えていた。

 現実世界でも、愛されていた。16日に広島の優勝を阻止した夜のことだ。

 大松 あの日、ご飯を食べに外に出かけたんだ。で、入ったお店が広島ファンでいっぱい。赤いユニホームを着た人がずらっと並んでてさ。やばいなーと思ったんだけど、最後にお店を出る時にみんなから握手を求められたんだよ。広島のファンの方から「勝負の世界だからしょうがないけえ。すばらしい活躍をしたね」と言われた。すごいよね。

 優勝を阻止した相手選手の活躍にも賛辞を送る広島ファンの、野球選手に対する尊敬の念。純粋に野球を応援する文化がすばらしいと感じた瞬間だった。ちなみに、退店する時には空気を読み「すいませんでした!」と頭を下げたという。

 優しい人柄と、ここぞの場面でファンに歓喜をもたらす男、大松尚逸。まだまだ伝説を見せてほしい。【ヤクルト担当=島根純】