屋内球場なのに暖かな風を感じた。3月23日、ナゴヤドームで行われたロッテとのオープン戦、9回2死満塁の場面だった。声援でも罵声でもなかった。最初は静かだったが、小さな拍手がスタンドに広がり、マウンドにいる男を温かく包み込んだ。

 「聞こえてました」。ダイヤモンドの中央に立っていたのは、16年の育成ドラフト1位で入団し、その日に支配下登録されたばかりの木下雄介投手(24)だった。生光学園(徳島)から駒大に進学したものの中退。2年間、野球から離れた後、四国IL徳島に入団。頭角を現し、16年の育成ドラフト1位で中日入りした異色の右腕だ。入団時は育成契約ながら妻子がいることでも注目された。

 結局、次打者に満塁本塁打を許し、支配下選手としての初マウンドは1回5失点だった。その木下雄が、4月15日に初の1軍選手登録されて、その日のDeNA戦の9回にプロ初登板を果たした。9回1イニングだけだったが、3人を抑えて、野球人生初の横浜スタジアムでの経験を終えた。「目標の1軍登板をクリアできて良かった。これからは勝ち試合で投げさせてもらえるようがんばりたい」と話していた。しかし、19日に出場選手登録を抹消され、初の1軍生活は1試合、5日間で幕を閉じた。

 「声援の中で投げるのは好きです」。150キロ超の速球を武器にする右腕。「勝ち試合で投げられるようになりたい」。自ら作ったピンチの場面でなく、今度は大きな拍手と声援の“風”に押されて、ナゴヤドームのマウンドに上がる日を見てみたい。【中日担当=伊東大介】