少し汚い話になってしまって恐縮ですが…。

昨年1月、記者は1日で4回も吐いてしまったことがある。トレーニングジムで数十分に1回トイレに駆け込む姿を見て、当時阪神に所属していた鳥谷は「おまえ、練習ナメてただろ…」とあきれかえっていた。

現ロッテの鳥谷は球界屈指の「練習の鬼」として知られる。ここ数年1月にハワイで自主トレを共にするDeNA大和いわく「1月が近づいてくると『またあの練習が始まるのか』と怖くなって眠れなくなる」レベル。記者も19年、今年の1月に数日間だけハワイ自主トレに押しかけさせてもらっているのだが、冒頭で書いた通り、1年目に練習初日だけで4回も嘔吐(おうと)して恥をさらした。

そういえば、ジム内でトイレに走っては戻ってを繰り返す記者の姿を見て、推定身長190センチ、体重100キロのマッチョマンが「WOW!」と興奮して握手を求めてきた記憶がある。「あのジャパニーズは妥協なきトレーニングで自分を追い込む猛者に違いない」といった感じで勝手に勘違いしてくれたらしかった。どうでもいい話だが…。とにかく、それぐらい厳しい練習だった。

ハワイでの鳥谷の1日は午前5時から始まる。自室でストレッチなどを終えるとジムに移動。ジムで体に刺激を与えてから、やっと屋外トレを始める。下半身強化、ダッシュメニューなどに数時間をかけ、午後からは再びジムへ。ここでも体幹、敏しょう性などを鍛える数時間のメニューを休みなく続け、ようやく夕方に帰路に就く。

何に驚いたかと言うと、そのトレーニングメニューのほとんどが毎日違っていたこと。聞けば、大半は自分で作成したメニューだという。「人から教えてもらったメニューを『もっとこうしたらここを鍛えられるな』とアレンジしたり、本とかYouTubeから仕入れた情報を活用したりね」。もはや新たなメニュー開発は日課のようなものなのだろう。

阪神を退団して移籍先を探していた今年2月前半には、そんな「メニュー開発力」があらためて生かされていた。

プロ入り後初めてキャンプに参加できず「さすがにボールを使う練習は相手がいないとできない。うちの駐車スペースで壁当てばっかやってるよ」と苦笑い。一方で、肉体強化に関しては自宅でできるメニューを“引き出し”から取り出すだけで良かったこともあり、3月のロッテ入団後も体力的には何の問題もなかったそうだ。

鳥谷が作成したトレーニングにはゴムチューブやバランスボールを使った、自室でも可能なメニューも多かった。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点で在宅トレの頻度が高まっている今、今度はどんなメニューを開発しようとしているのだろうか。

どうしても気がめいってしまいがちな毎日。環境や周りのせいにせず「今自分にできること」に集中する選手たちの姿を想像すると、自然と前向きな感情が湧き出てくる。【遊軍=佐井陽介】