巨人田中豊樹投手(27)が頼もしい。前半戦、陰の立役者の1人と言って差し支えないだろう。今季はすでにキャリアハイの昨季に迫る24試合に登板し、防御率1・99と好成績をマーク。防御率に限れば、ビエイラや高梨、鍵谷よりも良い数字を残している。いまや巨人の投手陣に欠かせない存在になりつつある。

苦い経験が下地にある。日本ハム時代の19年、1軍登板がなく、オフに戦力外通告を受けた。「野球をやめようかなという時期もあった。でもやっぱりもう1回、1軍で投げたいという思いが強かった」。12球団合同トライアウトを受験し、狭き門に望みをかけた。結果、巨人と育成契約を結び、受験した投手26人の中で唯一、NPBに生き残った。「戦力外になったのは自分の人生の中でプラス。マイナスに考えることなく、よかった」。前を向いて、モチベーションに変えてきた。

昨季は開幕から2軍で好投を続け、昨年7月に支配下契約を結んだ。再び1軍のマウンドで投げる権利をつかみ取った。ただ、巨人入団後も、何もかもが順調だったわけではない。昨年11月8日のヤクルト戦。2点リードの8回だった。4番手で登板したものの、2者連続四死球と安打で無死満塁とされ、逆転満塁弾を被弾。そのままプロ初黒星を喫した。同戦は坂本が通算2000安打を決めたメモリアルマッチ。先発の横川も5回1失点と好投し、プロ初勝利の権利を持っていた。お祭りムードになるはずだった本拠地最終戦での、苦い経験がある。

好転のきっかけはいつもと違う役割を与えられたことだった。2軍降格した5月下旬。普段の中継ぎではなく、先発を経験し、考え方を変える一助になった。「2軍で先発をさせてもらって、4回を投げて思う部分があった。キチキチを狙わず、ストライクゾーンで勝負できることを経験できた」と好感触をつかんだ。6月5日の日本ハム戦から1軍に復帰すると、元々の武器である150キロを超える重い直球の効果が増した。大胆な姿勢でゾーンに投げ込む安定感のある投球で、勝ち試合での登板機会も増加した。復帰後は13試合で与四死球2。頼もしくなった姿に宮本投手チーフコーチも「成長したでしょ? やはり制球力ですよ。スライダーとか、カットボールでストライク取れるようになった。結果が出ると自信もつくし」と信頼を寄せる。

好調を維持したままシーズンは折り返し地点に突入した。1度はクビを宣告された苦労人が、後半戦も継続して存在感を示し続ける。【巨人担当=小早川宗一郎】